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著名作品の「書き出し」と「書き終わり・結び」
「書き終わり・結び」
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 「書き終わり・結び」 <作家別・か行>
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 使い方と説明
下の枠の番号をクリックすると、表示されている作家の作品が出たり消えたりします。
主に明治・大正から昭和初期の作家の、日本文学を主とする著名な作品の「書き出し」と「書き終わり・結び」を収録しました。一部翻訳文も含まれます。
詩集や、段などで書かれている作品は、初めの一編(一段、一作など)と最後の一編(一段、一作など)を「書き出し」「書き終わり・結び」として示しました。小説や随筆などにおける「書き出し」「書き終わり・結び」とはやや趣が異なります。
このページでは、『作家別・か行』の作品の「書き終わり・結び」、つまり作品の最後の部分を表示します。
「書き出し」は別のページで見ることができます。「書き出しを見る」をクリックして下さい。
「インターネット電子図書館 青空文庫 」からの引用がかなりの割合を占めます。引用したサイトがある場合、それぞれの作品の原文へのリンクを設けました。
研究や学習にお使いの際は、辞典・専門書などでご確認下さい。
1 梶井基次郎 「ある心の風景」
 窓からの風景はいつの夜も渝(かわ)らなかった。喬にはどの夜もみな一つに思える。
 しかしある夜、喬は暗(やみ)のなかの木に、一点の蒼白(あおじろ)い光を見出した。いずれなにかの虫には違いないと思えた。次の夜も、次の夜も、喬はその光を見た。
 そして彼が窓辺を去って、寝床の上に横になるとき、彼は部屋のなかの暗にも一点の燐光(りんこう)を感じた。
「私の病んでいる生き物。私は暗闇のなかにやがて消えてしまう。しかしお前は睡らないでひとりおきているように思える。そとの虫のように……青い燐光を燃(もや)しながら……」


2 梶井基次郎 「桜の樹(き)の下には」
 ああ、桜の樹の下には屍体が埋まっている! 
 いったいどこから浮かんで来た空想かさっぱり見当のつかない屍体が、いまはまるで桜の樹と一つになって、どんなに頭を振っても離れてゆこうとはしない。
 今こそ俺は、あの桜の樹の下で酒宴をひらいている村人たちと同じ権利で、花見の酒が呑(の)めそうな気がする。


3 梶井基次郎 「檸檬(れもん)」
 不意に第二のアイディアが起こった。その奇妙なたくらみはむしろ私をぎょっとさせた。
 ――それをそのままにしておいて私は、なに喰(く)わぬ顔をして外へ出る。――
 私は変にくすぐったい気持がした。「出て行こうかなあ。そうだ出て行こう」そして私はすたすた出て行った。
 変にくすぐったい気持が街の上の私を微笑(ほほえ)ませた。丸善の棚へ黄金色に輝く恐ろしい爆弾を仕掛けて来た奇怪な悪漢が私で、もう十分後にはあの丸善が美術の棚を中心として大爆発をするのだったらどんなにおもしろいだろう。
 私はこの想像を熱心に追求した。「そうしたらあの気詰まりな丸善も粉葉(こっぱ)みじんだろう」
 そして私は活動写真の看板画が奇体な趣きで街を彩(いろど)っている京極を下って行った。


4 鴨長明 「方丈記」
すみかは則ち淨名居士のあとをけがせりといへども、たもつ所はわづかに周梨槃特が行にだも及ばず。もしこれ貧賤の報のみづからなやますか、はた亦妄心のいたりてくるはせるか、その時こゝろ更に答ふることなし。たゝかたはらに舌根をやとひて不請の念佛、兩三返を申してやみぬ。時に建暦の二とせ、彌生の晦日比、桑門蓮胤、外山の庵にしてこれをしるす。

5 菊池寛 「恩讐の彼方に」
心の底から湧き出ずる歓喜に泣く凋(しな)びた老僧を見ていると、彼を敵として殺すことなどは、思い及ばぬことであった。敵を討つなどという心よりも、このかよわい人間の双の腕(かいな)によって成し遂げられた偉業に対する驚異と感激の心とで、胸がいっぱいであった。彼はいざり寄りながら、再び老僧の手をとった。二人はそこにすべてを忘れて、感激の涙にむせび合うたのであった。

6 菊池寛 「父帰る」
新二郎 (父を抱き起しながら)これから行く所があるのですか。
父 (まったく悄沈として腰をかけたまま)のたれ死するには家(うち)は要らんからのう……(独言のごとく)俺やってこの家(うち)に足踏ができる義理ではないんやけど、年が寄って弱ってくると、故郷の方へ自然と足が向いてな。この街へ帰ってから、今日で三日じゃがな。夜になると毎晩家(うち)の前で立っていたんじゃが、敷居が高うて入れなかったのじゃ……しかしやっぱり入らん方がよかった。一文なしで帰って来ては誰にやってばかにされる……俺も五十の声がかかると国が恋しくなって、せめて千と二千とまとまった金を持って帰ってお前たちに詫をしようと思ったが、年が寄るとそれだけの働きもできんでな……(ようやく立ち上って)まあええ、自分の身体ぐらい始末のつかんことはないわ。(蹌踉(そうろう)として立ち上り、顧みて老いたる妻を一目見たる後、戸をあけて去る。後四人しばらく無言)
母 (哀訴するがごとく)賢一郎!
おたね 兄さん!
(しばらくのあいだ緊張した時が過ぎる)
賢一郎 新! 行ってお父さんを呼び返してこい。
(新二郎、飛ぶがごとく戸外へ出る。三人緊張のうちに待っている。新二郎やや蒼白な顔をして帰って来る)
新二郎 南の道を探したが見えん、北の方を探すから兄さんも来て下さい。
賢一郎 (驚駭(きょうがい)して)なに見えん! 見えんことがあるものか。
(兄弟二人狂気のごとく出で去る)

――幕――


7 紀貫之 「土佐日記」
「うまれしもかへらぬものを我がやどに小松のあるを見るがかなしさ」
とぞいへる。猶あかずやあらむ、またかくなむ、
「見し人の松のちとせにみましかばとほくかなしきわかれせましや」。
わすれがたくくちをしきことおほかれどえつくさず。とまれかくまれ疾くやりてむ。


8 国木田独歩 「武蔵野」
夏の短夜が間もなく明けると、もう荷車が通りはじめる。ごろごろがたがた絶え間がない。九時十時となると、せみが往来から見える高い梢で鳴きだす、だんだん暑くなる。砂埃すなぼこりが馬のひづめ、車のわだちあおられて虚空こくうに舞い上がる。はえの群が往来を横ぎって家から家、馬から馬へ飛んであるく。
 それでも十二時のどんがかすかに聞こえて、どことなく都の空のかなたで汽笛の響がする。


9 幸田露伴 「五重塔」
 暴風雨のために準備したく狂ひし落成式もいよ/\済みし日、上人わざ/\源太をび玉ひて十兵衞と共に塔に上られ、心あつて雛僧こぞうに持たせられし御筆に墨汁すみしたゝか含ませ、我此塔に銘じて得させむ、十兵衞も見よ源太も見よとのたまひつゝ、江都かうとの住人十兵衞之を造り川越源太郎之を成す、年月日とぞ筆太に記し了られ、満面に笑を湛へて振り顧り玉へば、両人ともに言葉なくたゞ平伏ひれふふして拝謝をがみけるが、それより宝塔とこしなへに天に聳えて、西よりれば飛檐ひえん或時素月を吐き、東より望めば勾欄夕に紅日を呑んで、百有余年の今になるまで、はなしは活きて遣りける。

10 小林多喜二 「蟹工船」
「それでも若し駆逐艦を呼んだら、皆で――この時こそ力を合わせて、一人も残らず引渡されよう! その方がかえって助かるんだ」
「んかも知らない。然し考えてみれば、そんなことになったら、監督が第一周章あわてるよ、会社の手前。代りを函館から取り寄せるのには遅すぎるし、出来高だって問題にならない程少ないし。……うまくやったら、これア案外大丈夫だど」
「大丈夫だよ。それに不思議に誰だって、ビクビクしていないしな。皆、畜生! ッて気でいる」
「本当のことを云えば、そんな先きの成算なんて、どうでもいいんだ。――死ぬか、生きるか、だからな」
「ん、もう一回だ!」

 そして、彼等は、立ち上った。――もう一度


 



 
 
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