『暑』の字が付く熟語= 炎暑、激暑、酷暑、極暑、溽暑、猛暑など = 近年、夏の気温が高くなり、40度を超す地域も多くなっています。 ここでは、『暑』の字が下に付く熟語を見てみます。 引用した文学作品では、便宜上、該当する熟語を太字にして着色しました。 絵は、歌川豊国三代による江戸時代の「手回し団扇・手動扇風機」です。 炎暑 旱暑 激暑・劇暑 厳暑 酷暑 極暑 蒸暑 溽暑 甚暑 熱暑 猛暑 その他 参考:気象庁・ランキング 「江戸時代の手回し団扇」 歌川豊国三代 『あつまけんしみたて五節句』(部分) 安政2年(1855年) [国立国会図書館蔵] 《3枚つなぎ合わせの絵》 炎暑えんしょ ・夏の燃えるようなきびしい暑さ。酷暑。炎熱。(広辞苑 第七版) ・〔もえるような感じの〕夏の きびしいあつさ。(三省堂国語辞典 第七版) ・真夏のはなはだしい暑さ。酷暑。炎熱。(大辞林 第三版) ・真夏の燃えるような暑さ。(明鏡国語辞典) ・真夏の焼けつくような暑さ。酷暑。(デジタル大辞泉) 芥川龍之介 長江游記 私は長江を溯った時、絶えず日本を懐しがっていた。しかし今は日本に、――炎暑の甚しい東京に 汪洋(おうよう)たる長江を懐しがっている。 中谷宇吉郎 寅彦夏話 寅彦先生が亡くなられてから二度目の夏を迎えるが、自分は夏になると妙にしみじみと先生の亡くなられたことを感ずる。大学を出て直ぐに先生の助手として、夏休み中狭い裸のコンクリートの実験室の中で、三十度を越す炎暑に喘ぎながら、実験をしていた頃を思い出すためらしい。 佐々木味津三 右門捕物帖 なぞの八卦見 半月のちといえばもちろんもう月は変わって、文月(ふみづき)七月です。ご承知のごとく、昔は太陰暦でございますから、現今とはちょうどひと月おくれで、だから七月といえば、まさに炎熱のまっさいちゅうです。それがまたどうしたことか目もあてられない酷暑つづきで、そのときのお奉行所(ぶぎょうしょ)お日誌によると、この年炎暑きびしく、相撲(すもう)取り的にて三人蒸し死んだるものある由、と書かれてありますから、 吉川英治 三国志 五丈原の巻 ――かくてはいかなるご根気も倦(う)み疲れ、到底、神気のつづくいわれはございません。ましてやようやく夏に入って、日々この炎暑では何でお体が堪(たま)りましょう。 旱暑かんしょ ・ひでりであついこと。(広辞苑 第七版) ・。(三省堂国語辞典 第七版) ・日照りでひどく暑いこと。(大辞林 第三版) ・。(明鏡国語辞典) ・日照りでたいへん暑いこと。(デジタル大辞泉) 激暑・劇暑げきしょ ・はげしい暑さ。酷暑。(広辞苑 第七版) ・はげしい暑さ。(三省堂国語辞典 第七版) ・はげしい暑さ。酷暑。(大辞林 第三版) ・激しい暑さ。(明鏡国語辞典) ・はげしい暑さ。酷暑。(デジタル大辞泉) 大杉栄 獄中消息 早稲田の講義録の中の生物学、樗牛全集の一、二、三はないのか。あの持主によろしく。梁川の文集、早稲田の時代史。 欧文のものを禁ぜられたのではなはだ困っているが、露は猟人日記、独はゲーテ文集、この二つを幾度も繰返して読むつもりだ。猟人日記の持主に、あれを出る頃まで借りられるか尋ねてくれ。 狂風がフランス語をやってるのは感心感心。若宮、守田など病気如何に。社会にいるものはなぜそう体が弱いのだろうね。 この雨が止んだら急に激暑が来るだろう。足下のお弱いお体も御大事に。 書画骨董の景気は如何に。子供も大きくなったろうね。山田へ行く時があったら、細君に米川のお悔みをよろしく頼む。 厳暑げんしょ ・きびしい暑さ。(広辞苑 第七版) ・。(三省堂国語辞典 第七版) ・きびしい暑さ。酷暑。(大辞林 第三版) ・。(明鏡国語辞典) ・きびしい暑さ。酷暑。(デジタル大辞泉) 酷暑こくしょ ・夏のきびしい暑さ。酷熱。(広辞苑 第七版) ・きびしい暑さ。(三省堂国語辞典 第七版) ・厳しい暑さ。酷熱。極暑。(大辞林 第三版) ・ひどく暑いこと。厳しい暑さ。(明鏡国語辞典) ・ひどく暑いこと。真夏の厳しい暑さ。(デジタル大辞泉) 岡本かの子 真夏の幻覚 汗はしんしんと工人達の背にまろび、百合はあかく咲き極まって酷暑の午後の太陽の光のなかに昏(くら)むばかりの強い刺戟を眼に与える。 佐々木味津三 右門捕物帖 なぞの八卦見 事件の端を発しましたのは、前回のにせ金事件がめでたく大団円となりましてから約半月ほどたってからのことでしたが、半月のちといえばもちろんもう月は変わって、文月(ふみづき)七月です。ご承知のごとく、昔は太陰暦でございますから、現今とはちょうどひと月おくれで、だから七月といえば、まさに炎熱のまっさいちゅうです。それがまたどうしたことか目もあてられない酷暑つづきで、そのときのお奉行所(ぶぎょうしょ)お日誌によると、この年炎暑きびしく、相撲(すもう)取り的にて三人蒸し死んだるものある由、と書かれてありますから、 宮本百合子 風知草 吉岡純介は、重吉というよりは寧ろひろ子の親友の一人であった。結核専門で、そのためにひろ子は何度も重吉の体について相談して来た。一九四二年の夏、東京は六十八年ぶりとかの酷暑であった。前年の十二月九日、真珠湾攻撃の翌朝、そういう戦争に協力することを欲していない者と見られていた数百人の人々の一人として、ひろ子も捕えられ、珍しい暑い夏を、巣鴨の拘置所で暮した。 牧逸馬 浴槽の花嫁 ちょうどその二、三日酷暑が襲って来て、急病人が多く、健康な人もなんらか身体に変調を感じ易い時だったので、ただそれだけのことにすぎないと、ベシイ・マンディのウイリアムズ夫人は、医者へ来てまでも軽く抗弁していたが、 極暑ごくしょ ・きわめて暑いこと。暑さのさかり。(広辞苑 第七版) ・暑さがいちばんひどいこと。(⇔極寒)(三省堂国語辞典 第七版) ・非常に暑いこと。また、夏の暑い盛り。酷暑。(大辞林 第三版) ・きわめて暑いこと。最高の暑さ。(明鏡国語辞典) ・きわめて暑いこと。夏の暑さの盛り。(デジタル大辞泉) 泉鏡花 伯爵の釵 かかる折から、地方巡業の新劇団、女優を主とした帝都の有名なる大一座が、この土地に七日間の興行して、全市の湧くがごとき人気を博した。 極暑の、 旱(ひでり)というのに、たといいかなる人気にせよ、湧くの、煮えるのなどは、口にするも暑くるしい。が、――諺(ことわざ)に、火事の折から土蔵の焼けるのを防ぐのに、大盥(おおだらい)に満々と水を湛(たた)え、蝋燭(ろうそく)に灯を点じたのをその中に立てて目塗(めぬり)をすると、壁を透(とお)して煙が裡(うち)へ漲(みなぎ)っても、火気を呼ばないで安全だと言う。 泉鏡太郎 十和田湖 樹(き)はいま緑(みどり)に、流(ながれ)は白(しろ)い。嵐気(らんき)漓(したゝ)る、といふ癖(くせ)に、何(なに)が心細(こゝろぼそ)い、と都会(とくわい)の 極暑(ごくしよ)に悩(なや)むだ方々(かた/″\)からは、その不足(ふそく)らしいのをおしかりになるであらうが、行向(ゆきむか)ふ、正面(しやうめん)に次第(しだい)に立累(たちかさな)る山(やま)の色(いろ)が真暗(まつくら)なのである。 横光利一 詩集『花電車』序 今まで、私は詩集を読んでゐて、涙が流れたといふことはない。しかし、稀らしい。私はこの「花電車」を読みながら涙が頬を伝って流れて来た。極暑の午後で、雨もなく微風もない。ひいやりと流れて来たのはひと条の涙だけ――ああこれは、おれの涙かなと私は思ひ、詩人の貌をしばらく遠空に描いてゐた。私はこの風顔が好きである。 吉川英治 新書太閤記 第六分冊 それを見ると、信長もまた、眼の縁(ふち)に充血をあらわした。泣き虫な男と泣き虫な男とが寄ったように、しばしはお互いに面(おもて)をそむけ、小姓や近臣の怪しむ眼を憚(はばか)っていた。 やがて、信長はいった。 「極暑の頃からこの極寒にいたるまで、 因幡(いなば)、伯耆(ほうき)の僻地(へきち)において長々の苦労。病みもしつらん、老いもしつらん、などと案じていたが、思いのほか、却って、若やぎて見ゆる。筑前、ひと頃よりは若(わこ)うなったのう」 蒸暑じょうしょ ・むしあついこと。(広辞苑 第七版) ・。(三省堂国語辞典 第七版) ・むし暑いこと。(大辞林 第三版) ・。(明鏡国語辞典) ・むし暑いこと。溽暑。(デジタル大辞泉) 溽暑じょくしょ ・むしあついこと。蒸暑。(広辞苑 第七版) ・。(三省堂国語辞典 第七版) ・湿気が多くてむし暑いこと。(大辞林 第三版) ・。(明鏡国語辞典) ・蒸し暑いこと。(デジタル大辞泉) 永井荷風 断腸亭日乗 断腸亭日記巻之三大正八年歳次己未 六月六日。 夕刻より日本橋若松家にて玄文社合評会あり。隂雲天を閉さして雨ふらず。溽暑甚し。 七月三十日。両三日空くもりて溽暑甚しく大雨降り来りては忽ち歇む。降りてはやみ歇みてはまた降る事明治四十三年秋都下洪水の時によく似たり。 永井荷風 断腸亭日記巻之五大正十年歳次辛酉 五月八日。晴れたれど雨意猶去らず。溽暑を催す。銀座通の夜景盛夏の如し。平岡画伯に逢ふ。 甚暑じんしょ ・はなはだしい暑さ。(広辞苑 第七版) ・。(三省堂国語辞典 第七版) ・はなはだ暑いこと。はなはだしい暑さ。大暑。酷暑。(大辞林 第三版) ・。(明鏡国語辞典) ・はなはだしい暑さ。酷暑。(デジタル大辞泉) 森鴎外 伊沢蘭軒 家居頗大一豪富賈なり。主人名藉(なはせき)字(あざな)は元助(げんじよ)嘉樹堂といふ。好学(がくをこのみ)て雅致なり。品坐(ひんざ)劇談暁にいたりて二人に別る。此日甚暑(じんしよ)にあらず。行程九里許(きよ)。 又本途に就き遂に二里広島城下藤屋一郎兵衛の家に次(やど)る。市に入て猿猴橋(ゑんこうばし)京橋を過来る。繁喧は三都に次ぐ。此日朝涼、午時より 甚暑不堪(じんしよにたへず)。夜風あり。頼春水の松雨山房を訪。 熱暑ねっしょ ・夏のあつさ。太陽の熱で暑いこと。(広辞苑 第七版) ・。(三省堂国語辞典 第七版) ・夏の日盛りの暑さ。暑熱。(大辞林 第三版) ・。(明鏡国語辞典) ・日ざしが強くあついこと。暑熱。炎暑。(デジタル大辞泉) 猛暑もうしょ ・はげしい暑さ。(広辞苑 第七版) ・猛烈な暑さ。(三省堂国語辞典 第七版) ・きびしい暑さ。ひどい暑さ。(大辞林 第三版) ・激しい暑さ。酷暑。(明鏡国語辞典) ・激しい暑さ。酷暑。(デジタル大辞泉) 坂口安吾 戯作者文学論 ――平野謙へ・手紙に代えて―― 七月十一日(晴) 猛暑。うちの寒暖計は三十四度。湿気が多くて、たえがたい。 四枚書いて、又、やめる。午後、又、始めから、やり直し。六枚、書いたが、又、やめる。又、やり直しだ。谷村と、素子が、いくらか、ハッキリしてきた。始め、私は谷村をあたりまえの精神肉体ともに平々凡々たる人物にするつもりだったのに、どうもだめだ。今日は、すこし、病身の男になった。そして私は伊沢君と葛巻(くずまき)君のアイノコみたいな一人の男を考えてしまっているのだ。素子の方は始めからハッキリしている。岡本も、ハッキリしている。 若園清太郎君、夕方、内山書店N君を伴い来る。ウイスキー持参。N君は戦闘機隊員、終戦で満洲(まんしゅう)から飛行機で逃げてきた由(よし)。猛暑たえがたし。畳の上へ、ねむる。 坂口安吾 七月廿一日 晴、一雨ほしや。 朝湯のよろしさ、朝蝉のよろしさ。 まつたく猛暑だ、油蝉熊蝉が鳴きだした。 身分しらべで巡査来訪、いろ/\話す、若いおとなしい巡査だつた。 何でも売れば売れる(窮すれば通ずる)、運よく今日は一杯代捻りだした、曰く、空炭俵六枚十八銭、古新聞十六銭、空罎七銭、合して四十一銭也! 長谷川時雨 江木欣々女史 あたしは、鏡花さんが水がきらいで私の住んでいた佃島(つくだじま)の家(うち)が、海潚(つなみ)に襲われたとき、ほどたってからとても渡舟(わたし)はいけないからと、やっとあの長い相生橋(あいおいばし)を渡って来てくださったことを思出したり、厭(きら)いとなったら、どんな猛暑にも雷が鳴り出すと 蚊帳(かや)のなかでふとんをかぶっていられるので、ある時、奈良へ行った便次(ついで)に、唐招菩提寺(とうしょうぼだいじ)の雷除(よ)けをもっていってあげたことを、思出したりしていた。 吉川英治 私本太平記 建武らくがき帖 勝者の門 雨もほどよく、土用の照り込みも充分だったせいだろう、近年になく、ことしは稲の伸びがいい。しかしまた何十年ぶりの猛暑だともいわれており、新田義貞の 上洛(じょうらく)途上では、飲み水や食中(しょくあ)たりで、将士のうちで腹をこわした者が多かった。 「やれ着いたか」 「京が見える」 寒暑 かんしょ 向暑 こうしょ 残暑 ざんしょ 小暑 しょうしょ 消暑・銷暑 しょうしょ 処暑 しょしょ 盛暑 せいしょ 大暑 たいしょ 耐暑 たいしょ 中暑 ちゅうしょ 薄暑 はくしょ 避暑 ひしょ 防暑 ぼうしょ