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背水之陣/背水の陣
はいすいのじん
作家
作品

有島武郎

【惜みなく愛は奪う】

 だから私に取っては現在を唯一の宝玉として尊重し、それを最上に生き行く外に残された道はない。私はそこに背水の陣を布(し)いてしまったのだ。
 といって、私は如何にして過去の凡てを蔑視(べっし)し、未来の凡てを無視することが出来よう。私の現在は私の魂にまつわりついた過去の凡てではないか。そこには私の親もいる。私の祖先もいる。その人達の仕事の全量がある。その人々や仕事を取り囲んでいた大きな世界もある。

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有島武郎

【或る女(前編)】

 木村はその日も朝から葉子を訪れて来た。ことに青白く見える顔つきは、何かわくわくと胸の中に煮え返る想(おも)いをまざまざと裏切って、見る人のあわれを誘うほどだった。背水の陣と自分でもいっているように、亡父の財産をありったけ金に代えて、手っ払(ぱら)いに日本の雑貨を買い入れて、こちらから通知書一つ出せば、いつでも日本から送ってよこすばかりにしてあるものの、手もとにはいささかの銭(ぜに)も残ってはいなかった。

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太宰治

【グッド・バイ】

「心配するな。ぼくだって、いま一生懸命なんだ。これが失敗したら、身の破滅さ。」
「フクスイの陣って、とこね。」
「フクスイ? バカ野郎、ハイスイ(背水)の陣だよ。」
「あら、そう?」
 けろりとしている。田島は、いよいよ、にがにがしくなるばかり。しかし、美しい。りんとして、この世のものとも思えぬ気品がある。

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織田作之助

【可能性の文学】

日本の伝統的小説にもいいところがあり、新しい外国の文学にもいいところがあり、二者撰一(にしゃせんいつ)という背水の陣は不要だという考え方もあろうが、しかし、あっちから少し、こっちから少しという風に、いいところばかりそろえて、四捨五入の結果三十六相そろった模範的美人になるよりは、少々歪んでいても魅力あるという美人になりたいのだ。

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與謝野寛

【執達吏】

『然(さ)うだらう、家賃ばかりでも従来(これまで)の四倍から費(かゝ)るのだからな。』
『もう、お小遣も無く成つたので御座います。』
『愈々(いよ/\)初めの決心通り背水の陣だね。』
『従来(これまで)も片時呑気な間(ま)も無かつたのですけれど、まだ大崎でなら永い間土地の人に馴染(なじみ)が有りましたから大抵の買物は借りて置けましたが此処(こゝ)は何から何迄現金ですもの。』

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下村湖人

【次郎物語 第三部】

何でも、第二学期の試験がすんだ日、大沢がたずねて来て雑談しているうちに、誰かが「背水の陣」という言葉をつかったのがもとらしく、自分で自分を窮地(きゅうち)に陥(おとしい)れて苦労をしてみるのも面白いではないか、という意見が出、更にそれが、「無計画の計画」という大沢の哲学めいた言葉にまで発展して、翌日から、さっそくそれを実行に移そうということになり、これも大沢の発案で、「筑後川上流探検」ということに決まったわけなのである。

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土井晩翠

【野口英世博士の生家を訪ひて (野口記念館の設立を希望す)】

アメリカ渡航の熱情が火の如く燃えたが、家族への心配が當然に念頭を離れぬので煩悶にたへなかつた野口を慰め勵まし、『家族のことは一切引受けた、アメリカに行け、背水の陣を布け、世界に名を揚ぐるほどの學者になれ』と諭したのは翁であつた、感謝の涙で以來野口からその生を終るまで父と敬稱されたのは翁であつた。

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小林多喜二

【防雪林】

この所、先生の意見をきいた。校長先生は、まづ、町にゐる商賣人に自分達所有の畑物を全部賣つてしまひ、その背水の陣で、地主に當ることにしたらいゝ、といふことを云つた。

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豊島与志雄

【明日】

 最初に述べた或る男は、其後、私に次のようなことを云った。――あの当時僕は、所謂背水の陣を布いて生きていた。この背水の陣というものは、まかり間違えば、凡てを投り出して自殺するというような、そんななまやさしいものではない。異常な「明日」を責任を以て肯定するという、やさしいようで実は非常に困難な覚悟の肚をすえていたのだ。

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堺利彦

【貧を記す】

 引ッ越してより五、六日、いまだ飯をたくことあたわず。家主に敷金をやらず、先の宿にまかない料を払わず。こんどの引ッ越しすべて背水の陣なり。
 四月一日、はなはだ窮せり、家主迫り先の宿迫る。徹夜して一文を草す。この夜徹夜しつるはなかばは勉強のためなかばはふとんなきがためなり。

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蒲原有明

【緑蔭叢書創刊期】

それにしても世間がよく君の創作と事業とを重んじ、また理解してゐたといふ點は無論あるにはあつたが、一面詩から小説に轉じた關係もあり、すでに水彩畫家の名作を出してはゐられたわけであるけれども、小説家としての將來は矢張未知數であつたといふところから、文壇的にも、生活上にも、思ひきつて背水の陣を布かれたその處置には、確かに外面から見て危險をおぼえしめるものがあつた。

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宮本百合子

【獄中への手紙 一九三九年(昭和十四年)】

 この間、生活というものは背水の陣をしいてしまわなければ落付けるものでない、とおっしゃったこと。耳と心にのこり、面白く翫味(がんみ)しています。この言葉の内に含蓄されているものはなかなか一通りではなくてね。人間芸術家としての成長の真のモメントはここにあると思います。


 人生における背水の陣の意味を一たび理解しそれに耐えるものは、追々成長の異った段階で、一層新しい発見をするから面白いものです。

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嘉村礒多

【崖の下】

 圭一郎は急所をぐつと衝かれ、切なさが胸に悶えて返す言葉に窮した。Y町で二人の戀愛が默つた悲しみの間に萌(きざ)し、やがて拔き差しのならなくなつた時、千登世は、圭一郎が正式に妻と別れる日迄幾年でも待ち續けると言つたのだが、彼は一剋(いつこく)に背水の陣を敷いての上で故郷に鬪ひを挑むからと其場限りの僞りの策略で言葉巧みに彼女を籠絡(ろうらく)した。

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牧野信一

【鬼涙村】

「忠さんが引受けたとなれば、それはもう俺たちは安心だけど、だが――」と松は神妙に眼を伏せて楊枝の先を弄しながら、誰々を抱き込んで一先ず背水の陣を敷き、などと首をひねっていた。法螺忠のそんな大業な見得に接しても至極自然な合槌(あいづち)を打てる松どもも、また自然そうであればあるだけ心底は不真面目と察せられるのだ。

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エム・ケー・ガンヂー

福永渙訳

【スワデシの誓】

誓ひはいつでも成就の困難でない事柄に關してのみなさるるものだ。何事かを爲さんとして、努力を續けた後で失敗する時、これを成就せんとの誓ひを立て、背水の陣を布くならば、吾々はその誓ひから釋放され得ないから、失敗を避けることが出來るのである。

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岡本綺堂

【白髪鬼】

万一ことしの受験にも失敗するようであったら、その時こそは思い切って帰郷しますと、無理に父を口説いて再び上京しました。したがって、ことしの受験はわたしに取っては背水の陣といったようなわけで、平素のん気な人間も少しく緊張した心持で帰って来たんです。

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林不忘

【丹下左膳 乾雲坤竜の巻】

 その闇黒が凝(こ)って散らばったように、二十にあまる黒法師が、堀をはさんで立つ松の木下にピタッと静止していた。
 左膳、源十郎を頭に、本所化物屋敷の百鬼が、深夜にまぎれて群れ出てきたのだ。
 文字どおり背水の陣
 岸のふち、舟板を手にのっそりと構える蒲生泰軒に押し並んで、諏訪栄三郎は、もうこころ静かに武蔵太郎安国の鞘を払っていた。われにもなくまつわり立つお艶の身を、微笑とともにそっと片手でかばいながら、

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佐々木味津三

【右門捕物帖 お蘭しごきの秘密】

 のぞいてみると、意外! 脱兎(だっと)のごとく消えてなくなったはずのあの町人が、いつのまにかかいがいしいわらじ姿につくり変えて、身ごしらえもものものしいうえに、こしゃくな殺気をその両眼にたたえながら、じっと中のけはいをうかがっているのです。
「ウフフ、背水の陣を敷いたかい。じゃ、こっちでもひとしばいうってやらあ」
 ずかずかと縁側伝いに離れへ帰ってくると、
「お蘭どの!」

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中里介山

【生前身後の事】

彼等一党が総検挙をされたようであった、これで沢正一座も愈々没落かと思われた、これまでの彼の人気と増長ぶりについては喝采(かっさい)する者は絶えず喝采していたが、余輩から見ると、自暴(やけ)の盲動的勇気としか見えなかった、自暴で背水の陣を敷くと人間はなかなか強くもなれるし、また意外な好運も迎えに来るものだと思わしめられないでもないが、無理は無理だ、と我輩のみならず、心ある者は彼をあやぶみきっていたが、果してこの検挙で幕が下りた、

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Last updated : 2022/11/23