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筆硯紙墨
ひっけんしぼく |
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作家
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作品
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太宰治 |
【母】
「さすがにそれ以後は殴られなくなったろう。」「いいえ、かえってひどく殴られました。」 小川君の家へ着いた。山を背にして海に臨んだ小綺麗な旅館であった。 小川君の書斎は、裏二階にあった。明窓浄几、筆硯紙墨、皆極精良、とでもいうような感じで、あまりに整頓されすぎていて、かえって小川君がこの部屋では何も勉強していないのではないかと思われたくらいであった。床柱に、写楽の版画が、銀色の額縁に収められて掛けられていた。それはれいの、 |
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