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▼参考書
砲刃矢石
ほうじんしせき
作家
作品

島崎藤村

【夜明け前 第一部下】

 幕府方にはすでに 砲刃矢石(ほうじんしせき)の間に相見る心が初めからない。金扇のかがやきは高くかかげられても、山陽道まで進もうとはしない。大軍が悠々(ゆうゆう)と閑日月(かんじつげつ)を送る地は豊臣(とよとみ)氏の恩沢を慕うところの大坂である。ある人の言葉に、ほととぎすは啼(な)いて天主台のほとりを過ぎ、五月(さつき)の風は茅渟(ちぬ)の浦端(うらわ)にとどまる征衣を吹いて、兵気も三伏(さんぷく)の暑さに倦(う)みはてた、とある。
 過ぐる文久年度の生麦(なまむぎ)事件以上ともいうべき外国関係の大きなつまずきが、この不安な時の空気の中に引き起こって来た。

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Last updated : 2025/12/26