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▼参考書
朋党比周
ほうとうひしゅう
作家
作品

中島敦

【李陵】

項羽も始皇帝(しこうてい)も楚(そ)の荘王(そうおう)もみな同じ人間になってしまう。違った人間を同じ人間として記述することが、何が「述べる」だ? 「述べる」とは、違った人間は違った人間として述べることではないか。そう考えてくると、やはり彼は削った字句をふたたび生かさないわけにはいかない。元どおりに直して、さて一読してみて、彼はやっと落ちつく。いや、彼ばかりではない。そこにかかれた史上の人物が、項羽や樊噲(はんかい)や范増(はんぞう)が、みんなようやく安心してそれぞれの場所に落ちつくように思われる。
 調子のよいときの武帝(ぶてい)は誠(まこと)に高邁闊達(こうまいかったつ)な・理解ある文教の保護者だったし、太史令(たいしれい)という職が地味な特殊な技能を要するものだったために、官界につきものの 朋党比周(ほうとうひしゅう)の擠陥讒誣(せいかんざんぶ)による地位(あるいは生命)の不安定からも免れることができた。
 数年の間、司馬遷は充実した・幸福といっていい日々を送った。(当時の人間の考える幸福とは、現代人のそれと、ひどく内容の違うものだったが、それを求めることに変わりはない。)妥協性はなかったが、どこまでも陽性で、よく論じよく怒りよく笑いなかんずく論敵を完膚(かんぷ)なきまでに説破することを最も得意としていた。

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Last updated : 2025/12/26