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▼参考書
浮華虚飾
ふかきょしょく
作家
作品

上田敏

【『新訳源氏物語』初版の序】

 源氏物語の文章は、当時の宮廷語、殊に貴婦人語にすこぶる近いものだろう。故事(こじ)出典その他修辞上の装飾には随分、仏書漢籍の影響も見えるが、文脈に至っては、純然たる日本の女言葉である。たとえば冒頭の「いづれの御時(おほんとき)にか、女御(にようご)更衣(かうい)あまたさぶらひ給ひけるなかに」云々の語法は、今もなお上品な物言(ものいい)の婦人に用いられている。雨夜(あまよ)の品定(しなさだめ)に現われた女らしい論理が、いかにもそれに相応した言葉で、畦織(うねおり)のように示された所を見れば、これは殆ど言文一致の文章かと察しられる。源氏物語の文体は決して浮華虚飾のものでない。軽率に一見すると、修飾の多過ぎる文章かと誤解するが、それは当時の制度習慣、また宮廷生活の要求する言葉 遣(づかい)のあることを斟酌(しんしゃく)しないからである。官位に付随する尊敬、煩瑣(はんさ)なる階級の差等(さとう)、「御(おん)」とか、「せさせ給ふ」とかいう尊称語を除いてみれば、後世の型に囚(とら)われた文章よりも、この方が、よほど、今日の口語(こうご)に近い語脈を伝えていて、抑揚頓挫(とんざ)などという規則には拘泥(こうでい)しない、自然のままの面白味が多いようだ。

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Last updated : 2025/12/26