勧善懲悪
かんぜんちょうあく
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作家
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作品
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【文芸と道徳】
それらを除いた上でこの二種類の文学を見渡して見ると浪漫主義の文学にあってはその中に出てくる人物の行為心術が我々より偉大であるとか、公明であるとか、あるいは感激性に富んでいるとかの点において、読者が倫理的に向上遷善の刺戟を受けるのがその特色になっています。この影響は昔し流行った
勧善懲悪という言葉と関係はありますが、けっして同じではない。
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【澄江堂雑記】
これは何も黄表紙だの洒落本だのの作者ばかりではない。僕は曲亭馬琴さへも彼の
勧善懲悪主義を信じてゐなかつたと思つてゐる。馬琴は或は信じようと努力してはゐたかも知れない。が饗庭篁村氏の編した馬琴日記抄等によれば、馬琴自身の矛盾には馬琴も気づかずにはゐなかつた筈であらう。森鴎外先生は確か馬琴日記抄の跋に「馬琴よ、君は幸福だつた。君はまだ先王の道に信頼することが出来た」とか何とか書かれたやうに記憶してゐる。
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【中津留別の書】
人の心の同じからざる、その面の相異なるが如し。世の開るにしたがい、不善の輩もしたがって増し、平民一人ずつの力にては、その身を安くし、その身代を護るに足らず。ここにおいて一国衆人の名代なる者を設け、一般の便不便を謀て政律を立て、
勧善懲悪の法、はじめて世に行わる。この名代を名づけて政府という。その首長を国君といい、附属の人を官吏という。国の安全を保ち、他の軽侮を防ぐためには、欠くべからざるものなり。
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【世辞屋】
坊ちやんがアノ何うも長いダレ幕の間ちやんとお膝へ手を載せて見て居らつしやるのは流石は何うもお違ひなさるツてえましたら親方がさう云ひましたよ、夫ア当然よお前のやうな痴漢とは違ふ、ちやんと
勧善懲悪の道理がお解りになるから飽かずに見て居らつしやるのだ、若し其道理が解らなければ退屈して仕舞ふ訳ぢやアないか、
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【作家と教養の諸相】
その意味で作家馬琴の所謂教養はつまらなくもあるけれども、今日の私たちに興味を抱かせる点は、官学派のようなこの作家も時代の活きた脈動には自ずとつきうごかされるところがあって、当時の諸国往来の風俗・俚謡・伝説などにつよい関心を示しているところは面白い。伝統的な士道の末期的な教養は一面で馬琴の世界に勧善懲悪の善玉悪玉をつくり出しているとともに、他の半面では既に封建の石垣がくずれようとしている現実的な力に浸潤され、より現実の市民常識への拡大が行われているのである。
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【山中常盤双紙】
こういうことから考えてみると、この絵巻物は、一方では勧善懲悪の教訓を含んでいると同時に、また一方ではおそらく昔の戦乱時代の武将などに共通であったろうと思われる嗜虐的なアブノーマル・サイコロジーに対する適当な刺戟として役立ったものであろうと想像される。
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【虫干】
毒婦は如何なる彼の著作にも世話物と云へば必ず現はれて来る重要なる人物である。観客はこの人物の悪徳的活動範囲の広ければ広いだけ、所謂芝居らしい快感と興味とを感ずる。そして勧善懲悪の名の
下に一篇の結末に至つて此等の人物が惨殺若しくは所刑せられるのに対して、英雄的悲壮美を経験するのである。
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【日本の山と文学】
狸についてはカチ/\山がひとつの主要な物語にすぎないのだが、こゝでは狸の滑稽な面がいささかも取扱はれてゐない。
のみならず、兎の義侠的な復讐によつて勧善懲悪のモラルは一応具備してゐるのだが、狸が婆を殺し汁にして翁にすゝめるといふ物語の主点だけでは、凡そ日本の物語中最も惨忍極まるひとつで、シャルル・ペローの童話「赤頭巾」にモラルがないので文学の問題に取上げられてゐるのと好一対をなすもの、狸のためには甚だ気の毒なことなのである。
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【「いき」の構造】
亀甲模様は三対の平行線の組合せとして六角形を示しているが、「いき」であるには煩雑に過ぎる。万字は垂直線と水平線との結合した十字形の先端が直角状に屈折しているので複雑な感を与える。したがって模様としては万字繋は「いき」ではない。亜字模様に至ってはますます複雑である。亜字は支那太古の官服の模様として「取臣民背悪向善、亦取合離之義去就之義」といわれているが、
勧善懲悪や合離去就があまり執拗に象徴化され過ぎている。直角的屈折を六回までもして「両己相背」いている亜字には、瀟洒なところは微塵もない。亜字模様は支那趣味の悪い方面を代表して、「いき」とは正反対のものである。
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【大衆文芸作法】
此等、江戸時代の通俗小説類を一貫して見るのに、勿論当時の幕府の封建的支配の影響の下にあったためでもあるが、次のような諸点がそれ等の作品を通じての特徴として挙げられると思う。
一に、当時の以上の作品は、凡て全然無批判であった。そして、
二に、ある一つの型に、すっかり嵌り込んで了っていること。
三に、概して、勧善懲悪を目的としていること。そして、そのために、
屡々、事実が極端に曲げられ、或は誇張されている。且、歴史的事実の研究が、非常に不足していたこと。
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Last updated : 2025/09/19