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▼参考書
勧善懲悪
かんぜんちょうあく
作家
作品

夏目漱石

【文芸と道徳】

それらを除いた上でこの二種類の文学を見渡して見ると浪漫主義の文学にあってはその中に出てくる人物の行為心術が我々より偉大であるとか、公明であるとか、あるいは感激性に富んでいるとかの点において、読者が倫理的に向上遷善の刺戟(しげき)を受けるのがその特色になっています。この影響は昔し流行(はや)った 勧善懲悪(かんぜんちょうあく)という言葉と関係はありますが、けっして同じではない。

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芥川龍之介

【澄江堂雑記】

 これは何も黄表紙(きべうし)だの洒落本(しやれぼん)だのの作者ばかりではない。僕は曲亭馬琴(きよくていばきん)さへも彼の 勧善懲悪(くわんぜんちやうあく)主義を信じてゐなかつたと思つてゐる。馬琴は或は信じようと努力してはゐたかも知れない。が饗庭篁村(あへばくわうそん)氏の編した馬琴日記抄等(とう)によれば、馬琴自身の矛盾には馬琴も気づかずにはゐなかつた筈であらう。森鴎外(もりおうぐわい)先生は確か馬琴日記抄の跋(ばつ)に「馬琴よ、君は幸福だつた。君はまだ先王(せんわう)の道に信頼することが出来た」とか何(なん)とか書かれたやうに記憶してゐる。

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福沢諭吉

【中津留別の書】

 人の心の同じからざる、その面(おもて)の相異(あいこと)なるが如し。世の開(ひらく)るにしたがい、不善の輩(はい)もしたがって増し、平民一人ずつの力にては、その身を安くし、その身代を護るに足らず。ここにおいて一国衆人の名代(みょうだい)なる者を設け、一般の便不便を謀(はかっ)て政律を立て、 勧善懲悪(かんぜんちょうあく)の法、はじめて世に行わる。この名代を名づけて政府という。その首長を国君といい、附属の人を官吏という。国の安全を保ち、他の軽侮を防ぐためには、欠くべからざるものなり。

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三遊亭円朝

【世辞屋】

坊(ぼつ)ちやんがアノ何(ど)うも長(なが)いダレ幕(まく)の間(あひだ)ちやんとお膝(ひざ)へ手を載(の)せて見て居(ゐ)らつしやるのは流石(さすが)は何(ど)うもお違(ちが)ひなさるツてえましたら親方(おやかた)がさう云(い)ひましたよ、夫(それ)ア当然(あたりめえ)よお前(まへ)のやうな痴漢(ばか)とは違(ちが)ふ、ちやんと 勧善懲悪(くわんぜんちようあく)の道理(だうり)がお解(わか)りになるから飽(あ)かずに見て居(ゐ)らつしやるのだ、若(も)し其道理(そのだうり)が解(わか)らなければ退屈(たいくつ)して仕舞(しま)ふ訳(わけ)ぢやアないか、

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宮本百合子

【作家と教養の諸相】

その意味で作家馬琴の所謂教養はつまらなくもあるけれども、今日の私たちに興味を抱かせる点は、官学派のようなこの作家も時代の活きた脈動には自ずとつきうごかされるところがあって、当時の諸国往来の風俗・俚謡・伝説などにつよい関心を示しているところは面白い。伝統的な士道の末期的な教養は一面で馬琴の世界に勧善懲悪の善玉悪玉をつくり出しているとともに、他の半面では既に封建の石垣がくずれようとしている現実的な力に浸潤され、より現実の市民常識への拡大が行われているのである。

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寺田寅彦

【山中常盤双紙】

 こういうことから考えてみると、この絵巻物は、一方では勧善懲悪の教訓を含んでいると同時に、また一方ではおそらく昔の戦乱時代の武将などに共通であったろうと思われる嗜虐的なアブノーマル・サイコロジーに対する適当な刺戟として役立ったものであろうと想像される。

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永井荷風

【虫干】

毒婦は如何なる彼の著作にも世話物と云へば必ず現はれて来る重要なる人物である。観客はこの人物の悪徳的活動範囲の広ければ広いだけ、所謂(いはゆる)芝居らしい快感と興味とを感ずる。そして勧善懲悪の名の 下(もと)に一篇の結末に至つて此等の人物が惨殺若(も)しくは所刑せられるのに対して、英雄的悲壮美を経験するのである。

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坂口安吾

【日本の山と文学】

狸についてはカチ/\山がひとつの主要な物語にすぎないのだが、こゝでは狸の滑稽な面がいささかも取扱はれてゐない。  のみならず、兎の義侠的な復讐によつて勧善懲悪のモラルは一応具備してゐるのだが、狸が婆を殺し汁にして翁にすゝめるといふ物語の主点だけでは、凡そ日本の物語中最も惨忍極まるひとつで、シャルル・ペローの童話「赤頭巾」にモラルがないので文学の問題に取上げられてゐるのと好一対をなすもの、狸のためには甚だ気の毒なことなのである。

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九鬼周造

【「いき」の構造】

亀甲(きっこう)模様は三対の平行線の組合せとして六角形を示しているが、「いき」であるには煩雑(はんざつ)に過ぎる。万字(まんじ)は垂直線と水平線との結合した十字形の先端が直角状に屈折しているので複雑な感を与える。したがって模様としては万字繋(まんじつなぎ)は「いき」ではない。亜字(あじ)模様に至ってはますます複雑である。亜字は支那(シナ)太古の官服の模様として「取臣民背悪向善、亦取合離之義去就之義」といわれているが、 勧善懲悪(かんぜんちょうあく)や合離去就(ごうりきょしゅう)があまり執拗(しつよう)に象徴化され過ぎている。直角的屈折を六回までもして「両己相背(りょうこあいそむ)」いている亜字には、瀟洒(しょうしゃ)なところは微塵(みじん)もない。亜字模様は支那趣味の悪い方面を代表して、「いき」とは正反対のものである。

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直木三十五

【大衆文芸作法】

 此等、江戸時代の通俗小説類を一貫して見るのに、勿論当時の幕府の封建的支配の影響の下にあったためでもあるが、次のような諸点がそれ等の作品を通じての特徴として挙げられると思う。
 一に、当時の以上の作品は、凡て全然無批判であった。そして、
 二に、ある一つの型に、すっかり嵌(はま)り込んで了っていること。
 三に、概して、勧善懲悪を目的としていること。そして、そのために、 屡々(しばしば)、事実が極端に曲げられ、或は誇張されている。且、歴史的事実の研究が、非常に不足していたこと。

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Last updated : 2025/12/26