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▼参考書
九死一生
きゅうしいっしょう
作家
作品

泉鏡花

【雪霊記事】

 私はよく知っています――六本指なぞと、気(け)もない事です。確(たしか)に見ました。しかもその雪なす指は、摩耶夫人(まやぶにん)が召す白い細い花の手袋のように、正に五弁で、それが九死一生だった私の額に 密(そっ)と乗り、軽く胸に掛(かか)ったのを、運命の星を算(かぞ)えるごとく熟(じっ)と視(み)たのでありますから。――

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饗庭篁村

【良夜】

 足だまりの城として伯父より添書(そえがき)ありしは、浅草三間町の深沢某なり。この人元よりの東京人にてある年越後へ稼ぎに来りしが病に罹(かか)りて九死一生となり、路用も遣い果して難渋窮まりしを伯父が救いて全快させしうえ路用を与えて帰京させたれば、これを徳として年々礼儀を欠ず頼もしき者なればとて、外に 知辺(しるべ)もなければこの人を便りとしたりしなり。

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中里介山

【大菩薩峠 不破の関の巻】

 熊を洗濯することに我を忘れていた米友は、道庵先生の九死一生の絶叫を聞き漏すことではありません。
 俄然として醒(さ)めて、そうして声のする方を見ると、今し道庵が、二人の雲助のために無理無態に駕籠の中に押込まれて、担ぎ去られる瞬間でしたから、すっくと熊を抛擲(ほうてき)して立ち上りました。
 しかし、この際、米友の責任感としては、前後の事情を忘却することを許しません。わが師と頼む道庵先生が、またしてもの九死一生の危急を瞬時も猶予すべきではないが、同時に、この動物をこのままにして置いてはいけないということの、民衆的警戒性が 閃(ひらめ)きました。

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久生十蘭

【ノンシャラン道中記 合乗り乳母車 ――仏蘭西縦断の巻――】

 どこを、どう辿(たど)ったのかまるで夢中でサン・フロランタンの「旅館・金の鶏(オテル・コックドル)」というのにころげこんだのは九時近く。二人は九死一生の思い。――食卓をへだてて顔を見合せながら、たがいの無事を祝っていると、さっきの男が 鬱金(うこん)色の前掛け(タブリエ)を胸から掛けて、スウプの鉢を持ち出して来た。

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三遊亭圓朝
鈴木行三校訂編纂

【後の業平文治】

 文「いや左様(そう)でない、幸いに文治は二度も難船して、九死一生の難儀をしたが、肌身離さず持っていた金は失わぬ、さアこの 金子(きんす)でお浪を請出し、そちは後(あと)からまいれ、礼は江戸で致すぞよ」

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宮崎湖処子

【空屋】

 げに旅人は佐太郎なり、彼は今ただ一人帰れるなり、彼はさきに身を立つべき資を得んと百日余り命を賭(か)け牛馬のごとく追い使われしが、今は危難と苦役の地獄を出て、懐(なつ)かしき家路に上り、はるばるも故郷の橋を渡れるなり、彼が喜悦に溢(あふ)るる心緒は、熊本籠城の兵卒が、九死一生の重囲を出でて初めて青天白日を見たるその 嬉(うれ)しさにも優(まさ)るべく、いと重げなる黄金の包みのその懐(ふところ)に満々たるは、征西将軍が拝受したる菊桐(きくきり)の大勲章よりもその身にとってありがたかるべし、

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中里介山

【大菩薩峠 駒井能登守の巻】

「どうかお助けなすっておくんなさいまし、どなた様かは存じませぬが、九死一生(きゅうしいっしょう)の場合でございます、お見かけ申してお願い申すんでございます、どうかお助けなすって下さいまし」
 駕籠の傍へ手をついたのは、なるほど、九死一生と見えて髪は乱れ、白い着物は裂け、身体じゅう 突傷(つききず)だの擦傷(かすりきず)だので惨憺(さんたん)たるもので、その上に右の片腕が一本無い男であります。

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小島烏水

【白峰山脈縦断記】

 鼠色の凶兆(しらせ)はあった、それから間もなく、疾風豪雨になって、一行は、九死一生の 惨(みじ)めな目に遇(あ)わされた。

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岡本綺堂

【両国の秋】

「旦那、ようござんすかえ。姐さんは九死一生という場合なんですぜ。お屋敷の御用は仕方がありませんが、ほかの何事をおいてもここへ来なけりゃあ義理が済みませんぜ。どうで死ぬもんだからなんて薄情なことはしっこなしですぜ」

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押川春浪

【海島冐險奇譚 海底軍艦】

私(わたくし)は今(いま)喰殺(くひころ)されるのは覺悟(かくご)の前(まへ)だが、どうせ死(し)ぬなら徒(たゞ)は死(し)なぬぞ、斯(か)く睨合(にらみあ)つて居(を)る間(あひだ)に、先方(せんぱう)に卯(う)の毛(け)の虚(すき)でもあつたなら、機先(きせん)に此方(こなた)から飛掛(とびかゝ)つて、多少(たせう)の痛(いた)さは見(み)せて呉(く)れんと考(かんが)へたので、眼(まなこ)を放(はな)たず睥睨(へいげい)して居(を)る、猛狒(ゴリラ)も益々(ます/\)猛(たけ)く此方(こなた)を窺(うかゞ)つて居(を)る、此(この) 九死一生 (きうしいつしやう)の分(わか)れ目(め)、不意(ふい)に、實(じつ)に不意(ふい)に、何處(どこ)ともなく一發(いつぱつ)の銃聲(じうせい)。

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  • このサイトの制作時点では、三省堂の『新明解 四字熟語辞典』が、前版の5,600語を凌ぐ6,500語を収録し、出版社によれば『類書中最大。よく使われる四字熟語は区別して掲示。簡潔な「意味」、詳しい「補説」「故事」で、意味と用法を明解に解説。豊富に収録した著名作家の「用例」で、生きた使い方を体感。「類義語」「対義語」を多数掲示して、広がりと奥行きを実感』などとしています。

Last updated : 2025/12/26