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▼参考書
無理難題
むりなんだい
作家
作品

芥川龍之介

【偸盗】

阿濃(あこぎ)は猪熊(いのくま)のばばの気に逆らっては、よくむごたらしく打擲(ちょうちゃく)された。猪熊の爺(おじ)には、酔った勢いで、よく無理難題を言いかけられた。ふだんは何かといたわってくれる 沙金(しゃきん)でさえ、癇(かん)にさわると、彼女の髪の毛をつかんで、ずるずる引きずりまわす事がある。

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幸田露伴

【風流仏】

帰途(かえり)は一日の苦労の塊(かたま)り銅貨幾箇(いくつ)を酒に易(か)えて、御淋(おさび)しゅう御座りましたろう、御不自由で御座りましたろうと機嫌(きげん)取りどり笑顔(えがお)してまめやかに仕うるにさえ時々は無理難題、 先度(せんど)も上田(うえだ)の娼妓(じょうろ)になれと云い掛(かかり)しよし。さりとては胴慾(どうよく)な男め、生餌(いきえ)食う鷹(たか)さえ暖(ぬく)め鳥は許す者を。

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坂口安吾

【青春論】

 けれども、木村名人も、もう何度負けたか知れないのだ。これに比べれば武蔵の道は陰惨だ。負けた時には命がない。佐々木小次郎は一生に一度負けて命を失い、武蔵はともかく負けずに済んで、畳の上で往生を遂げたが、全く命に関係のない碁打や将棋指ですら五十ぐらいの齢になると勝負の激しさに堪えられない等と言いだすのが普通だから、武蔵の剣を一貫させるということは正に尋常一様のことではなかった。僕がそれを望むことは無理難題には相違ないが、然しながら武蔵が試合をやめた時には、武蔵は死んでしまったのだ。武蔵の剣は負けたのである。

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岡本かの子

【取返し物語】

蓮如『すでに存じておる以上隠し立てもなるまい。三井寺方の返事は全くその通りじゃ』
源右衛門『まさかと思って聴き居りましたに、では本当でござりまするか。如何に乱れた世の中とは言いながら、引換えの料(りょう)に人の生首。こりゃ無理難題を言いかけて御影像を返さぬつもりとしか受取れませぬ』

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太宰治

【葉桜と魔笛】

妹も、そのころは、痩(や)せ衰えて、ちから無く、自分でも、うすうす、もうそんなに永くないことを知って来ている様子で、以前のように、あまり何かと私に無理難題いいつけて甘ったれるようなことが、なくなってしまって、私には、それがまた一そうつらいのでございます。

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岸田國士

【菜の花は赤い】

 結婚式の当日まで、彼は、つひに、それを口に出す機会はなかつた。が、あれこれと考へた末、一つの案を得るには得た。これなら、さほど無理難題ではなく、それこそ、習慣をつけてしまひさへすれば、案外すらすらと、面白い結果がみられるのではないかと思つた。

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菊池寛

【大阪夏之陣】

 しかし、秀頼の周囲は、仲々強気で、秀頼が成長したら、政権が秀頼に帰って来るように夢想していたのであるから、結局亡びる外仕方がなかったのだろう。
 大阪冬の陣の原因である鐘銘問題など、甚だしく無理難題である。家康が、余命 幾何(いくばく)もなきを知り、自分の生前に処置しようと考え始めたことがハッキリ分る。

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種田山頭火

【其中日記 (九)】

六日ぶりに人が来て、人と話した訳だ。
午後、学校の給仕さんが樹明君の手紙を持つて来た、――下物は持つて行くから酒を用意してくれ、といふのである、これは今の私には無理難題だ、私は此頃八方塞りで手も足も出ない、たつた酒一升がままにならぬとは気の毒みたいだ、などゝ考へてゐるうちに、だん/\腹立たしくなつた、これは好意の悪意だ、貧乏と放縦と情誼と無能との雑炊だ!

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邦枝完二

【おせん】

「駕籠屋(かごや)さん」
「ほい」
「あたしゃもう降(お)りますよ」
「何(な)んでげすッて」
「 無理難題(むりなんだい)をいうんなら、ここで降(お)ろしておくんなさいよ」
「と、とんでもねえ。お前(まえ)さんを、こんなところでおろした日(ひ)にゃ、それこそこちとらァ、二度(ど)と再(ふたた)び、江戸(えど)じゃ家業(かぎょう)が出来(でき)やせんや。――そんなにいやなら、垂(たれ)を揚(あ)げるたいわねえから、そうじたばたと動(うご)かねえで、おとなしく乗(の)っておくんなせえ。――だが、考(かん)げえりゃ考(かん)げえるほど、このまま担(かつ)いでるな、勿体(もったい)ねえなァ」

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細井和喜蔵

【女給】

 笑楽のおやじは半分登恵子にも当てつけるように言った。
「お客がビール一本注文したら三本位持って行って了うのだよ。カツレツなんか注文したら、そんな吝(けち)くさい物を食べずにたまにゃ最と上等の料理おあがりよ、そしてあたしにも驕って頂戴ってせぶるんだ。」
 主人は新しい子にこうして押し売りを強いていた。併しこれも半ば登恵子に当てつけたような言い方なのである。朋輩は此の無理難題を一言の口答もせずに 御尤(ごもっとも)様で聴いているのだったが、登恵子はもう我慢が出来なかった。で、
「あたしゃね、人にこんな不味い料理の押し売りなんか出来ませんよ。」ときっぱり言い放った。

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Last updated : 2025/12/26