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▼参考書
温優貞淑
おんゆうていしゅく
作家
作品

泉鏡花

【芥川龍之介氏を弔う】

 玲瓏(れいろう)、明透(めいてつ)、その文(ぶん)、その質(しつ)、名玉山海( めいぎょくさんかい )を照(て)らせる君(きみ)よ。溽暑蒸濁( じょくしょじょうだく )の夏(なつ)を背(そむ)きて、冷々然(れい/\ぜん)として獨(ひと)り涼(すゞ)しく逝(ゆ) きたまいぬ。 倏忽(たちまち)にして巨星( きょせい )天(てん)に在(あ)り。光(ひかり)を翰林(かんりん)に曳(ひ)きて永久( とこしなえ )に消(き)えず。然(しか)りとは雖( いえど )も、生前(せいぜん)手(て)をとりて親(した)しかりし時(とき)だに、その容(かたち)を見(み)るに飽(あ)かず、その聲( こえ )を聞(き)くをたらずとせし、われら、君(きみ)なき今(いま)を奈何(いかん) せん。おもい 秋深(あきふか)く、露(つゆ)は涙(なみだ)の如(ごと)し。月(つき)を見(み)て、面影(おもかげ)に代(か)ゆべくは、誰(たれ)かまた哀別離苦 (あいべつりく)を言(い) うものぞ。高(たか)き靈(れい)よ、須臾(しばらく)の間( あいだ )も還( かえ )れ、地(ち)に。君(きみ)にあこがるゝもの、愛(あい)らしく賢(かしこ)き遺兒( いじ )たちと、温優貞淑( おんゆうていしゅく )なる令夫人(れいふじん)とのみにあらざるなり。
 辭(ことば)つたなきを羞(は) じつゝ、謹(つゝしん)で微衷( びちょう )をのぶ。
昭和二年八月

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Last updated : 2025/12/26