三十六計
さんじゅうろっけい
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作家
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作品
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【小説 不如帰】
三十年から連れ添う夫人お慶の身になっては、なかなかひと通りのつらさにあらず。嫁に来ての当座はさすがに舅や姑もありて夫の気質そうも覚えず過ごせしが、ほどなく姑舅と相ついで果てられし後は、夫の本性ありありと拝まれて、夫人も胸をつきぬ。初め五六度は夫人もちょいと盾ついて見しが、とてもむだと悟っては、もはや争わず、韓信流に負けて匍伏し、さもなければ三十六計のその随一をとりて逃げつ。そうするうちにはちっとは呼吸ものみ込みて三度の事は二度で済むようになりしが、さりとて夫の気質は年とともに改まらず。
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【本州横断 癇癪徒歩旅行】
一同は一足お先に那珂川に架けたる橋を渡り、河畔の景色佳き花月旅店に着いて待っていると、間もなく杉田先生得意満面、一行の荷物を腕車に満載してやって来た。聴けば、杉田先生はお年寄役だけに、三十六計の奥の手も余り穏かならじとあって、単身踏み留まり、なんとかかんとか胡魔化して、荷物をことごとく巻上げて来たとの事だ。鬼ヶ島から帰って来た桃太郎よりも大手柄大手柄。
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【聟】
詮吉の仲間の男で、それは下宿していた家の娘に信用され、直接結婚を申し込まれたという話があった。その男は、個人的な関係から大事が壊れるといけない、三十六計逃げるにしかずと、怱々に引越してしまった。
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【雨】
しかし、彼は用意した言葉が続いて出て来ず、しかも意に反して、顔が真赧になっていた。こんな筈ではなかったと思うのだが、自分の今の恰好を友達に見られたら随分不様であろうという恐怖で益々ぎこちなく真赧になってしまうのだった。沈黙の十五秒が恐ろしく永い時間に思われ、九死に一生、三十六計とばかり、別に用事はなかったんです。唯それだけです、と全くたゞそれだけがやっと言えたのを倖い、飛ぶ様に逃げてしまった。
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【右門捕物帖 七化け役者】
「みっともねえ顔して、びっくりするなよ。さっきとこんどとは、お出ましのだんなが違うんだッ。むっつり右門のあだ名のおれが目にへえらねえのか!」
きいて二度ぎょうてんしたのはむろんのことなので、しかるに市村宗助、なかなかのこしゃくです。三十六計にしかずと知ったか、楽屋いちょう、緋縮緬、おしろい塗りかけた顔のままで、やにわとうしろにあった西条流半弓を鏑矢もろとも、わしづかみにしながら、おやま姿にあられもなく毛むくじゃら足を大またにさばいて、タッ、タッ、タッと舞合表へ逃げだしましたので、名人、伝六、辰の三人も時を移さず追っかけていくと、だが、いけないことに舞台はちょうど幕をあけて、座方の頭取狂言方が、宗助出せッと鳴りわめいている見物に向かって、平あやまりにわび口上を述べているそのさいちゅうでしたから、不意に飛び出した四人の姿に、わッと半畳のはいったのは当然でした。
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【大菩薩峠 農奴の巻】
「地震でげすか、地震ときちゃあ、鐚は最も虫が好かねえんでげすが、さりとて、それござんなれと、鎧兜で鯰退治に出動という勇気はござんせん、まず、何を置いても、三十六計逃げるに越したことはございません、逃げるには、竹藪の方へ逃げた方がよろしいと教えられておりますんでございますが……」
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【丹下左膳 日光の巻】
あの朝、峰丹波の一刀からのがれて、三十六計を用いた田丸主水正、早々林念寺の上屋敷へたち帰って申したことには、
「何やら、先方から苦情が出ましてナ、今朝の立ちあいは中止になりましたて。丹波めと源三郎様と、まだいろいろと論議しておられましたが、私は、そのままにして帰ってまいりました。あの分では、妻恋坂の道場では、まだ当分にらみ合いがつづくことでございましょう」
などと、いいかげんな報告をして、殿の御前をとりつくろってしまった。
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Last updated : 2025/09/19