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▼参考書
殺伐激越
さつばつげきえつ
作家
作品

中島敦

【弟子】

 ある時、子路が一室で瑟(しつ)を鼓(こ)していた。
 孔子はそれを別室で聞いていたが、しばらくして傍(かたわ)らなる冉有(ぜんゆう)に向って言った。あの瑟の音を聞くがよい。暴厲(ぼうれい)の気がおのずから漲(みなぎ)っているではないか。君子の音は温柔(おんじゅう)にして中(ちゅう)におり、生育の気を養うものでなければならぬ。昔舜(しゅん)は五絃琴(ごげんきん)を弾(だん)じて南風の詩を作った。南風の薫(くん)ずるやもって我が民の慍(いかり)を解くべし。南風の時なるやもって我が民の財を阜(おおい)にすべしと。今由(ゆう)の音を聞くに、誠に殺伐激越(さつばつげきえつ)、南音に非(あら)ずして北声に類するものだ。弾者の荒怠暴恣(こうたいぼうし)の心状をこれほど明らかに映し出したものはない。――

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Last updated : 2025/12/26