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▼参考書
迅雷猛雨
じんらいもうう
作家
作品

泉鏡花

【薄紅梅】

 第一に南瓜畠が暗かった。数千の葉が庭ぐるみ皆戦(そよ)いだ。颶風(はやて)落来(おちく)と目がくらみ、頭髪(ずはつ)が乱れた。
 その時、遣場(やりば)に失した杯は思わず頭の真中(まんなか)へ載せたそうである。
 一よろけ、ひょろりとして、
「――一段と烏帽子が似合いて候――」
 とすっくり立った。
 が、これは雪の朝、吉原を落武者の困惑を繰返したものではない。一人の友達の、かつて、深山越(みやまごし)の峠の茶屋で、凄(すさま)じき 迅雷(じんらい) 猛雨に逢って、 遁(に)げも、引きも、ほとんど詮術(せんすべ)のなさに、飲みかけていた硝子盃(コップ)を電力遮断の悲哀なる焦慮で、天窓(あたま)に被(かぶ)ったというのを、改めて思出すともなく、無意識か、はた、意識してか、知らず、しかくあらしめたものである。

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Last updated : 2025/12/26