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▼参考書
洒洒落落/洒々落々
しゃしゃらくらく
作家
作品

二葉亭四迷

【浮雲】

栴檀(せんだん)は二葉(ふたば)から馨(こう)ばしく、蛇(じゃ)は一寸にして人を呑む気が有る。文三の眼より見る時はお勢は所謂女豪(じょごう)の萌芽(めばえ)だ。見識も高尚(こうしょう)で気韻も高く、 洒々落々(しゃしゃらくらく)として愛すべく尊(たっと)ぶべき少女であって見れば、仮令(よし)道徳を飾物にする偽君子(ぎくんし)、磊落(らいらく)を粧(よそお)う似而非(えせ)豪傑には、或は欺(あざむ)かれもしよう迷いもしようが、昇如きあんな卑屈な軽薄な犬畜生にも劣った奴に、怪我にも迷う筈はない。

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泉鏡太郎

【番茶話】

 それさへ――いま思(おも)へば、空(そら)吹(ふ)く風(かぜ)であつたらしい。
 又(また)思出(おもひだ)す事(こと)がある。故人(こじん)谷活東(たにくわつとう)は、紅葉先生(こうえふせんせい)の晩年(ばんねん)の準門葉(じゆんもんえふ)で、肺病(はいびやう)で胸(むね)を疼(いた)みつゝ、洒々落々 (しや/\らく/\)とした江戸(えど)ツ兒(こ)であつた。(かつぎゆく三味線箱(さみせんばこ)や時鳥(ほとゝぎす))と言(い)ふ句(く)を仲(なか)の町(ちやう)で血(ち)とともに吐(は)いた。此(こ)の男(をとこ)だから、今(いま)では逸事(いつじ)と稱(しよう)しても可(よ)いから一寸(ちよつと)素破(すつぱ)ぬくが、

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牧野信一

【露路の友】

「これは、貴方の叔父さんの表札ですか?」
 と、開き直つて兵野に尋ねた。
 何も気づかない酔ひ痴れてゐる兵野は、いとも洒々落々たる音声をあげて、「さうとも/\たしかに僕の叔父の表札さ。僕は二年前から此処に住んでゐるよ。今時分帰る時には玄関からでなしに、庭を回つて椽側から入ることになつてゐるんだから、向方をまはつて――まあ、君、折角だから上つて行つて呉れたまへ、女房にも会つて呉れ給へ、お礼を云はせたいんだ――ねえ、堀田君――」

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柴田流星

【残されたる江戸】

 男の素袷に兵児帯(へこおび)無雑作に巻いたも悪からず、昔男の業平(なりひら)にはこうした姿も出来なかったろうが、かきつばたのひんなりなりとした様は、なおかつ江戸ッ児の素袷着たるにも類すべく、朝湯で磨いた綺麗な肌を、無遠慮に寛ろげて、取繕わぬところにかれらの身上はある、洒々落々たる気分は、どうしてもこうした間に潜むもので、吾儕の身に纏う衣類のすべてを通じて、袷ほど江戸ッ児に相応しいものはまたとなかろう。

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夢野久作

【近世快人伝】

 湊屋の大将こと、篠崎仁三郎は、その日常の生活が悉(ことごと)くノベツ幕(まく)なしの二輪加の連鎖であった。浮世三分五厘、本来無一物の洒々落々 (しゃしゃらくらく)を到る処に脱胎(だったい)、現前しつつ、文字通りに行きなりバッタリの一生を終った絶学、無方の快道人であった。古今東西の如何なる聖賢、英傑と雖(いえど)も、一個のミナト屋のオヤジに出会ったら最後、鼻毛を読まれるか、顎骨(あごぼね)を蹴放(けはな)されるかしない者は居ないであろう。試みに挙(こ)す。看よ

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永井荷風

【書かでもの記】

床(とこ)の間(ま)には遊女の立姿(たちすがた)かきし墨絵の一幅(いっぷく)いつ見ても掛けかへられし事なく、その前に据ゑたる机は一閑張(いっかんばり)の極めて粗末なるものにて、先生はこの机にも床の間にも書籍といふものは一冊も置き給はず唯六畳の間(ま)との境の襖に添ひて古びたる書棚を置き麻糸にてしばりたる古雑誌やうのものを乱雑に積みのせたるのみ。これによりて見るも先生の平生(へいぜい)物に頓着(とんじゃく)せず襟懐(きんかい)常に洒々落々 (しゃしゃらくらく)たりしを知るに足るべし。

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種田山頭火

【其中日記 (九)】

九月廿二日

 秋晴。

朝、眼が覚めるといつも私は思ふ、――まだ生きてゐた、――今朝もさう思つたことである。
山の鴉がやつて来て啼く、私は泣けない。
身心重苦しく、沈欝、堪へがたし。
虚心坦懐であれ、洒々落々たれ、淡々たれ、悠々たれ。
午後はあんまり気がふさぐので近郊を散歩した、米と油とを買うて戻る。
樹明君は来てゐない、来てくれさうにもない、九、一九の脱線でまた戒厳令をしかれたのかもわからない。
今後は誓つて、よい酒、うまい酒、恥づかしくない酒、悔ゐない酒、――澄んでおちついた酒を飲まう、飲まなければならない。

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中里介山

【大菩薩峠 山科の巻】

 宇津木兵馬と福松との道行(みちゆき)は彼(か)が如く、白山(はくさん)に上ろうとして上れず、畜生谷へ落ち込まんとして落ち込むこともなく、峻山難路をたどって、その行程は洒々落々 (しゃしゃらくらく)、表裏反覆をつくしたような旅でありましたが、日と夜とを重ねて、ついに二人は越前の国、穴馬谷(あなまだに)に落ち込んでしまいました。

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林不忘

【巷説享保図絵】

 おゆうさんがなくなる前は、わしもしばらく遠のいておったから――一空さまは、そんな答えだったが、お高は、そうして母のことをきくと、一空さまが苦しそうに見えるので、よすことにした。ことによると、母と何かあって、そのためにこの人は、出家なぞなすったのではなかろうかと、気がついた。
 だがこの洒々落々 (しゃしゃらくらく)とした禅の坊さまと、自分の母とはいえ、一人のおんなとを結びつけて考えるのは、滑稽(こっけい)なようにも思えた。

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国枝史郎

【神秘昆虫館】

広い額、窪んだ眼窩、きわめて高い高尚な鼻、しかし異ったところもある。昆虫館主人は白髪だのに、こっちは艶々しい黒色である。昆虫館主人の眼と来ては、霊智そのもののような眼であったが、こっちの眼は意志的英雄的である。昆虫館主人よりも身長(たけ)が高く、そうして一層肥えてもいる。健康そのもののような体格である。昆虫館主人は学究として、あくまでも真面目、あくまでも真剣、しかるにこっち葵ご紋の武士は、洒々落々としたところがあり、人を食ったようなところがある。

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Last updated : 2025/12/26