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▼参考書
七転八倒/七顛八倒
しちてんばっとう
しってんばっとう
しちてんはっとう
作家
作品

太宰治

【ダス・ゲマイネ】

僕はむずかしい言葉じゃ言えないけれども、自意識過剰というのは、たとえば、道の両側に何百人かの女学生が長い列をつくってならんでいて、そこへ自分が偶然にさしかかり、そのあいだをひとりで、のこのこ通って行くときの一挙手一投足、ことごとくぎこちなく視線のやりば首の位置すべてに困(こう)じ果てきりきり舞いをはじめるような、そんな工合いの気持ちのことだと思うのですが、もしそれだったら、自意識過剰というものは、実にもう、七転八倒の苦しみであって、馬場みたいにあんな出鱈目な 饒舌(じょうぜつ)を弄(ろう)することは勿論できない筈だし、――だいいち雑誌を出すなんて浮いた気持ちになれるのがおかしいじゃないですか! 海賊。なにが海賊だ。好い気なもんだ。あなた、あんまり馬場を信じ過ぎると、あとでたいへんなことになりますよ。それは僕がはっきり予言して置いていい。僕の予言は当りますよ」

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坂口安吾

【女剣士】

「ワタシは芋と剣術しているわけじゃないから、芋をほしている時に隙があるのは当り前だ。日本中どこへ行ってもホシ芋と剣術している人がいますかね」
「このウチはそうなんだよ」
「化け物屋敷だ」
「化け物屋敷で結構よ」
「アナタは化け物だが、ワタシは人間だからね」
「言ったな」
 背中へ一撃を加える。この一撃は弁慶でも七転八倒するのであるが、歌子はジッと七転八倒させてはおかない。耳をつかんで存八の上体を引き起して、
「誓いなさい。ホシ芋と剣術すると」
「できるはずがない」
「できます」
「それはムリというものだ」
「コソ泥のくせに強情ね」
 存八はまた散々にぶちすえられた。

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泉鏡花

【光籃】

「しいツ。」
「此処(ここ)だ……」
「先刻(さっき)の処(ところ)。」
 と、声の下で、囁(ささや)きつれると、船頭が真先(まっさき)に、続いて青坊主(あおぼうず)が四(よ)つに這(は)つたのである。

 ――後(のち)に、一座の女たち――八人居た――楽屋一同、揃(そろ)つて、刃(は)を磨いた斧(おの)の簪(かんざし)をさした。が、夜(よる)寝(ね)ると、油、白粉(おしろい)の淵(ふち)に、藻(も)の乱るゝ如く、黒髪を散らして七転八倒 (しちてんばっとう)する。
「痛い。」
「痛い。」
「苦しい。」
「痛いよう。」

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泉鏡花

【二世の契】

 四五人で答へたらしい、荊(いばら)の実は又頻(しきり)に飛ぶ、記念(かたみ)の衣(きぬ)は左右より、衣紋(えもん)がはら/\と寄つては解(と)け、解(ほぐ)れては結(むす)ぼれ、恰(あたか)も糸の乱るゝやう、翼裂けて天女(てんにょ)の衣(ころも)、紛々(ふんふん)として大空より降(ふ)り来(く)るばかり、其の胸の反(そ)る時や、紅裏(こううら)颯(さっ)と飜(ひるがえ)り、地に襟(えり)のうつむき伏(ふ)す時、縞(しま)はよれ/\に背(せな)を絞つて、上に下に七転八倒 (しってんばっとう)。
 俤(おもかげ)は近く桂木の目の前に、瞳(ひとみ)を据(す)ゑた目も塞(ふさ)がず、薄紫(うすむらさき)に変じながら、言はじと誓ふ口を結んで、然(しか)も惚々(ほれぼれ)と、男の顔を見詰(みつむ)るのがちらついたが、今は恁(こ)うと、一度踏みこたへてずり外(はず)した、裳(もすそ)は長く草に煽(あお)つて、あはれ、口許(くちもと)の笑(えみ)も消えんとするに、桂木は最(も)うあるにもあられず、片膝(かたひざ)屹(きっ)と立てて、銃を掻取(かいと)る、袖(そで)を圧(おさ)へて、
「密(そっ)と、密と、密と。」

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久生十蘭

【顎十郎捕物帳 猫眼の男】

 ようやく腰をあげたのが、正午(ひる)すぎの八ツごろ。
 アコ長もとど助も空っ腹にむやみに飲んだもんだからへべれけのよろよろ。一歩は高く一歩は低くというぐあいに、甲州街道を代田橋から松原のほうへヒョロリヒョロリとやって行く。
 駕籠の中のひょろ松は大時化(しけ)にあった伝馬船のよう。駕籠が揺れるたびに、つんのめったりひっくりかえったり、芋の子でも洗うような七転八倒 (しってんばっとう)。
 座蒲団なんてえものもなく、荒削りの松板に直(ぢか)に坐っている上にあっちこっちにぶっつけるもんだから頭じゅう瘤(こぶ)だらけ。

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海野十三

【少年探偵長】

 机博士は、最後の言葉もおわらぬうちに、
「あっちちちち」と、叫んで右の眼をおさえた。見ると、太い針がぐさりと右の眼につきささっている。
「あっちちちち」
 机博士はふたたび叫んで、今度は左の眼をおさえた。同じような太い銀の針が左の眼にもつっ立っている。
「あっちちちち、あっちちち、わっ、た、助けて……」
 小男のかまえた毒棒(どくぼう)からは、まるで一本の糸のようにつぎからつぎへと毒針(どくばり)がとびだしてくる。机博士はみるみるうちに、全身(ぜんしん)針鼠(はりねずみ)のようになって、床のうえに倒れ、しばらく 七転八倒(しちてんばっとう)していたが、やがて、ピッタリ動かなくなった。
 これが悪魔のような机博士の最期(さいご)だったのだ。
 小男はヒヒヒヒと咽喉(のど)の奥でわらうと、
「どうだ、木戸、仙場甲二郎、おれの腕前はわかったか。おれを裏切ろうとするものはすべてこのとおりだ。どうだわかったか」

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久坂葉子

【灰色の記憶】

「ボビ。御電話よ」
「もう寐たと云って……」
 私は辛うじてそう云った。頭ががんがん鳴り、動悸ははげしく打った。体中がしびれてぐるぐるまわっているような気がした。すぐに私はもう何も感じなくなっていた。
 自殺するということも、死んでしまうことが出来なかったということも、これは全く喜劇であると考えたのは数日後であった。
 完全に五十時間の私を記憶していない。唯、人の話によると、七転八倒し、苦しみもがき、嘔吐し、自分の髪の毛をひっちぎり、よく云われる生きながらの地獄であったそうな。
 気がついた時、私の耳にラジオがきこえた。
「ヘ短調ね」
 私は口の中で呟いたようだったけれど、声には出なかった。

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田中英光

【オリンポスの果実】

 船に帰って、ピンポンをしていると、M氏が来て「坂本君、コダックは」と訊(き)きます。愕然(がくぜん)、ぼくは脳天を金槌(かなづち)でなぐられた気がしました。預かった憶えは、ないと言えばよかったのですが、言われた途端(とたん)、ハッとしたものがあって、――卑劣(ひれつ)なぼくは、「村川君に、じゃなかったのですか」と苦し紛(まぎ)れに嘘(うそ)を吐(つ)きました。M氏は、「そうだったかな」と気軽く言い、小首を捻(ひね)りながら、村川を捜(さが)しに行きましたが、ぼくは、居たたまれず、船室に駆けこみ、頭を押(おさ)えて、七転八倒(しちてんばっとう)の苦しみでした。
 お金持のM氏は、誰に預けたかを、そのまま追求もせず、諦(あきら)めておられたようですが、ぼくは良心の苛責(かしゃく)に、堪(た)えられず、あなたへの愛情へ、ある影を、ずっと落すようになりだしました。

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  • このサイトの制作時点では、三省堂の『新明解 四字熟語辞典』が、前版の5,600語を凌ぐ6,500語を収録し、出版社によれば『類書中最大。よく使われる四字熟語は区別して掲示。簡潔な「意味」、詳しい「補説」「故事」で、意味と用法を明解に解説。豊富に収録した著名作家の「用例」で、生きた使い方を体感。「類義語」「対義語」を多数掲示して、広がりと奥行きを実感』などとしています。

Last updated : 2025/12/26