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▼参考書
灼然炳乎
しゃくぜんへいこ
作家
作品

夏目漱石

【吾輩は猫である】

かくのごとく不可思議、不可測(ふかそく)の心を有している雪江さんも、細君と話をしているうちはさほどとも思わなかったが、主人が帰ってきて油壺を抛(ほう)り出すやいなや、たちまち死竜(しりゅう)に蒸汽喞筒(じょうきポンプ)を注ぎかけたるごとく、勃然(ぼつぜん)としてその深奥(しんおう)にして窺知(きち)すべからざる、巧妙なる、美妙なる、奇妙なる、霊妙なる、麗質を、惜気もなく発揚し了(おわ)った。しかしてその麗質は天下の女性(にょしょう)に共通なる麗質である。ただ惜しい事には容易にあらわれて来ない。否(いや)あらわれる事は二六時中間断なくあらわれているが、かくのごとく顕著に 灼然炳乎(しゃくぜんへいこ)として遠慮なくはあらわれて来ない。幸にして主人のように吾輩の毛をややともすると逆さに撫(な)でたがる旋毛曲(つむじまが)りの奇特家(きどくか)がおったから、かかる狂言も拝見が出来たのであろう。主人のあとさえついてあるけば、どこへ行っても舞台の役者は吾知らず動くに相違ない。面白い男を旦那様に戴(いただ)いて、短かい猫の命のうちにも、大分(だいぶ)多くの経験が出来る。ありがたい事だ。今度のお客は何者であろう

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Last updated : 2025/12/26