諸行無常
しょぎょうむじょう
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作家
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作品
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【墓】
○こう生きて居たからとて面白い事もないから、ちょっと死んで来られるなら一年間位地獄漫遊と出かけて、一周忌の祭の真中へヒョコと帰って来て地獄土産の演説なぞは甚だしゃれてる訳だが、しかし死にッきりの引導渡されッきりでは余り有難くないね。けれど有難くないの何のと贅沢をいって見たところで、諸行無常老少不定というので鬼が火の車引いて迎えに来りゃ今夜にも是非とも死ななければならないヨ。明日の晩実は柳橋で御馳走になる約束があるのだが一日だけ
日延してはくれまいかと願って見たとて鬼の事だからまさか承知しまいナ。
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【柵草紙の山房論文】
祇園精舍の鐘の聲、浮屠氏は聞きて寂滅爲樂の響なりといふべきが、待宵には情人が何と聞くらむ。沙羅雙樹の花の色、厭世の目には諸行無常の形とも見ゆらむが、
愁を知らぬ乙女は何さまに眺むらむ、要するに造化の本意は人未だこれを得知らず、只おのれに愁の心ありて秋の哀を知り、前に其心樂しくして春の花鳥を樂しと見るのみと。
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【死の淵より】
金色にかがやく仏塔の下で
大理石の仏像に合掌して眼をとじていると
暑さのためもうろうとなった頭が
日かげの風で眠けをもよおし
ノックアウトされたボクサーの昏睡に似た
一種の恍惚状態に陥ったものだ
暑熱がすごい破壊力を発揮しているそこの自然は
眼に見える現実としての諸行無常を私に示し
悟りとは違うあきらめが私の心に来た
蓮の花の美しさに同じ私の心が打たれたのもこの時だ
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【古寺巡礼】
都を取り巻く諸寺の梵鐘が一時にとどろき出た情景を想像してみる。我々は正午に工場の汽笛が斉鳴する感じを知っているが、あれを音波の長い鐘の音に置き換えるとどんな心持ちのものになるだろう。長閑な響きではあっても、やはり生き生きとした華やかな心持ちではなかろうか。奈良の昔の鐘は諸行無常の響きを持っていたとは考えにくい。
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【食魔】
鼈四郎は病友がいった通り、彼が死んでからも顔を描き上げようとはしなかった。隻眼を眇にして睨みながら哄笑している模造人面疽の顔は、ずった偶然によって却って意味を深めたように思えた。人生の不如意を、諸行無常を眺めやる人間の顔として、なんで、この上、一点の描き足しを附け加える必要があろう。
鼈四郎は病友の屍体の肩尖に大きく覗いている未完成の顔をつくづく見瞠り「よし」と独りいって、屍体を棺に納め、共に焼いてしまったことであった。
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【江戸芸術論】
滑稽諧謔は実にこの両詩形の因りて以て発生し来りし根本の理由にあらずして何ぞや。そもそもわが邦人固有の軽妙滑稽の性行は仏教の感化によりて遠く戦国時代に発芽したり。南北朝以来戦乱永く相つぎ人心諸行無常
を観ずる事従つて深かりしがその厭世思想は漸次時代の修養を経てまづ洒脱となり次で滑稽諧謔に慰安を求めんとするに至れり。
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【ニイチエ雑観 超人の如く潔き没落を憧憬するニイチエの日本精神に就て】
勿論、斯うした芸術に依る意志否定が単に一時的なものに過ぎないのに対して本当に恒久的に生への意志を否定し去つて呉れるものは、宗教的禁慾に依るところの方法であり、それより他に如何なる方法もあり得ない。
扨て其の本当の意志否定が如何にして為されるかといふに、先づ諸行無常とも言ふ可き厭世観の徹底が、快楽追及の無益なることを感得せしめ、諸法無我にも比す可き、汎神論的世界観の徹底が、我と云ひ彼といふ如き個体的生存の、単なる幻覚的迷妄に過ぎないことを、証悟さして呉れる。
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【行乞記 (一)】
駅で、伊豆地方強震の号外を見て驚ろいた、そして関東大震災当時を思ひ出した、そして諸行無常を痛感した、観無常心が発菩提心となる、人々に幸福あれ、災害なかれ、しかし無常流転はどうすることも出来ないのだ。
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【大菩薩峠 山科の巻】
「易という文字は、蜥易、つまり守宮の意味だと承りました。守宮という虫は、一日に十二度、色を変える虫の由にござりまする、すなわちそれを天地間の万物運行になぞらえまして、千変万化するこの世界の現象を御説明になり、この千変万化を八卦に画し、八卦を分てば六十四、六十四の卦は結局、陰陽の二元に、陰陽の二元は太極の一元に納まる、というのが易の本来だと承りました。仏説ではこの変化を、諸行無常と申しまして、太極すなわち
涅槃の境地でござりましょう」
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Last updated : 2025/09/19