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▼参考書
桑間濮上
そうかんぼくじょう
作家
作品

芥川龍之介

【 開化の殺人 】

爾来(じらい)予の明子に対する愛は益(ますます)烈しきを加へ、念々(ねんねん)に彼女を想ひて、殆(ほとんど)学を廃するに至りしも、予の小心なる、遂に一語の予が衷心を吐露す可きものを出さず。陰晴(いんせい)定りなき感情の悲天の下に、或は泣き、或は笑ひて、茫々(ばうばう)数年の年月を閲(けみ)せしが、予の二十一歳に達するや、予が父は突然予に命じて、遠く家業たる医学を英京竜動(ロンドン)に学ばしめぬ。予は訣別に際して、明子に語るに予が愛を以てせんとせしも、厳粛なる予等が家庭は、斯(かか)る機会を与ふるに吝(やぶさか)なりしと共に、儒教主義の教育を受けたる予も、亦 桑間濮上(さうかんぼくじやう)の譏(そしり)を惧(おそ)れたるを以て、無限の離愁を抱きつつ、孤笈飄然(こきふへうぜん)として英京に去れり。

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永井荷風

【 桑中喜語 】

宮古路(みやこじ)の浄瑠璃は享保(きょうほ)元文(げんぶん)の世にあつては君子これを聴いて桑間濮上(そうかんぼくじょう)の音となしたりといへども、大正の通人は頤(あご)を撫(な)でて古雅掬(きく)すべしとなす。けだし時世変遷の然らしむるところなり。

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Last updated : 2025/12/26