ご利用について
▼参考書
拓落失路
たくらくしつろ
作家
作品

二葉亭四迷

【浮雲】

架棚(たな)の擂鉢(すりばち)が独手(ひとりで)に駈出(かけだ)すやら、ヤッサモッサ捏返(こねかえ)している所へ生憎(あやにく)な来客、しかも名打(なうて)の長尻(ながっちり)で、アノ只今(ただいま)から団子坂へ参ろうと存じて、という言葉にまで力瘤(ちからこぶ)を入れて見ても、まや薬ほども利(き)かず、平気で済まして便々とお神輿(みこし)を据(す)えていられる。そのじれッたさ、もどかしさ。それでも宜(よ)くしたもので、案じるより産むが易く、客もその内に帰れば髪結も来る、ソコデ、ソレ支度も調い、十一時頃には家内も漸(ようや)く静まッて、折節には高笑がするようになッた。
 文三は拓落失路(たくらくしつろ)の人、仲々以(もっ)て観菊などという空(そら)は無い。それに昇は花で言えば今を春辺(はるべ)と咲誇る桜の身、此方(こっち)は日蔭(ひかげ)の枯尾花、到頭(どうせ)楯突(たてつ)く事が出来ぬ位なら打たせられに行くでも無いと、境界(きょうがい)に随(つ)れて僻(ひが)みを起し、一昨日(おとつい)昇に誘引(さそわれ)た時既にキッパリ辞(ことわ)ッて行かぬと決心したからは、人が騒ごうが騒ぐまいが隣家(となり)の疝気(せんき)で関繋(かけかまい)のない噺(はなし)、ズット澄していられそうなもののさて居られぬ。

青空文庫で読む  

島崎藤村

【家(下巻)】

 実――お俊の父は、三吉とお雪とが夫婦に成ってから、始めて弟の家に来て見た。旧(ふる)い小泉を相続したこの一番年長(うえ)の兄が、暗い悲酸な月日を送ったのも、久しいものだ。彼が境涯の変り果てたことは、同じ地方の親しい「旦那衆(だんなしゅう)」を見ても知れる。一緒に種々な事業を経営した直樹の父は、彼の留守中に亡くなった。意気相投じた達雄は、最早拓落失路(たくらくしつろ)の人と成った。

青空文庫で読む  

 
  • それぞれの四字熟語の詳しい意味などは、辞典や専門書でお確かめください。
  • このサイトの制作時点では、三省堂の『新明解 四字熟語辞典』が、前版の5,600語を凌ぐ6,500語を収録し、出版社によれば『類書中最大。よく使われる四字熟語は区別して掲示。簡潔な「意味」、詳しい「補説」「故事」で、意味と用法を明解に解説。豊富に収録した著名作家の「用例」で、生きた使い方を体感。「類義語」「対義語」を多数掲示して、広がりと奥行きを実感』などとしています。

Last updated : 2025/12/26