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▼参考書
田夫野人
でんぷやじん
作家
作品

新渡戸稲造

【自警録】

 とかく道徳とか仁義とかいえば、高尚(こうしょう)遠大(えんだい)にして、通常人の及ばざるところ、たまたま及ぶことあれば、生涯(しょうがい)に一度か二度あって、専門的に修むる者にあらざれば、単に茶話(さわ)の料(かて)か、講義の題として聞くもののごとく思い流すの懼(おそれ)がある。もちろん道徳の思想は高尚(こうしょう)、その道理は遠大(えんだい)であろう。しかしその効用と目的は日々の言行に現すほど、吾人(ごじん)の意識の中に浸(し)み込(こ)ませるところにあると思う。古(いにしえ)の賢人も道はここにありと教えた。なお賢人の曰(い)うに、「言(げん)近くして旨(むね)遠きものは善言(ぜんげん)なり。守ること約にして施(ほどこ)すこと博(ひろ)きものは善道なり。君子(くんし)の言(げん)は帯(おび)より下(くだ)らずして道(みち)存(そん)す」と。
​​​​​ これを思えば道すなわち道徳はその性(せい)高くしてその用(よう)低く、その来たるところ遠くして、その及ぼすところ広く、田夫野人(でんぷやじん)も守り得(う)るものであるらしい。

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倉田百三

【学生と教養 ――教養と倫理学――】

 さてかような倫理的要請は必ず倫理学(エティク)という学に向かうとは限らない。一般に科学というものを知らなかった上古の人間も学としての形態の充分ととのっていない支那や日本の諸子百家の教えも、また文字なき田夫野人の世渡りの法にも倫理的関心と探究と実践とはある。しかし現代に生を享けて、しかも学徒としての境遇におかれたインテリゲンチャの青年にあっては、その倫理的要請は倫理学というひとつの合理的なる学に向かうということはきわめて自然なことである。自分の如きもその過程をとった一人であった。

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福田英子

【妾の半生涯】

父さては家に累(わずら)いを及ぼさんは眼の前なりと思い返し、財産は弟に譲るも遺憾なし、自分は思う仔細(しさい)あれば、多年の苦学を空(むな)しうせず、東京にて相当の活路を求めんといい出でけるに、両親の機嫌(きげん)見る見る変りて、不孝者よ、恩知らずよと叱責(しっせき)したり。已(や)むなく前言を取り消して、永く膝下(しっか)にあるべき旨(むね)を答えしものから、七年の苦学を無にして田夫野人 (でんぷやじん)と共に耒鋤(らいじょ)を執(と)り、貴重の光陰(こういん)を徒費(とひ)せんこと、如何(いか)にしても口惜しく、また妾の将来とても、到底農家に来りて馴(な)れぬ養蚕機織(はたお)りの業(わざ)を執り得べき身ならねば、

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内田魯庵

【八犬伝談余】

 全く自ら筆を操る事が出来なくなってからの口授作(くじゅさく)にも少しも意気消沈した痕が見えないで相変らずの博引旁証(はくいんぼうしょう)をして気焔を揚げておる。馬琴の衒学癖(げんがくへき)は病(やまい)膏肓(こうこう)に入(い)ったもので、無知なる田夫野人(でんぶやじん)の口からさえ故事来歴を講釈せしむる事が珍らしくないが、

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夢野久作

【梅津只円翁伝】

 翁の芸風を当時の一子方に過ぎない筆者が批評する事は、礼、非礼の問題は例としても不可能事である。
 しかし筆者としては及ばずながらこの機会に出来る限り偽わらざる感想を述べておきたい。門外漢の田夫野人の言葉でも古名人の境界を伝えている事が屡々あるのだから。同時に翁の芸風を知り過ぎる位知って居られる現家元喜多六平太氏や、熊本の友枝御兄弟の批評などは容易に得られないと思うから……。

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中里介山

【法然行伝】

わしももう年八十に近い。たとい皆の者と同じ都に住んでいてもこの世の別れは遠くない。たとい山海をへだつとも浄土では遠からず会えるのだ。嫌やでも人間は生きる間は生きている。惜しがっても死ぬ時には死ぬのが人の命じゃ。必ずしも処によるということはない。ましてこの念仏の興行も都ではもはや年久しいことだ。これから辺鄙(へんぴ)に赴いて、田夫野人をすすめることが年頃の本意であったが、まだいろいろ事繁くしてその本意を果すことが出来なかった。

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国枝史郎

【剣侠】

それにいたしましても高萩では、とんだ無礼いたしましたのう。ハッ、ハッ、とんだ無礼を! ……が、あいつは正直のところ、私の本意ではなかったので。いかに私が田夫野人でも、何で本気で婦人に対し、あのような所業に及びましょうぞ。あれは高萩の猪之松どんの乾児衆のやった仕事なので。ただ私はゆきがかりで、そいつをご馳走にあずかろうと、心掛けたばかりでございますよ。

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Last updated : 2025/12/26