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天地神明
てんちしんめい
作家
作品

夏目漱石

【虚子君へ】

 そのくせ周囲の空気には名状すべからざる派出はでな刺激があって、一方からいうと前後を忘れ、自我を没して、この派出な刺激を痛切に味いたいのだから困ります。その意味からいうと、美々しい女や華奢きゃしゃな男が、天地神明を忘れて、当面の春色に酔って、優越な都会人種をもって任ずる様や、あるいは天下をわがもの顔に得意にふるまうのが うらやましいのです。

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北村透谷

【心機妙変を論ず】

死は永遠の死にして、再見の機あらざるべき実を知りたり。無常彼に迫りて、無常の実を示し、離苦彼を囲みて、離苦の実を表はし、恋愛その偽装を脱して、恋愛の実を顕はし、痴情その実躰を現じ、大悪その真状を露はし、彼をして棘然きよくぜんとして顛倒せしめ、しかのちに彼をして始めて己れの存立の実なると天地万有の実なるとを覚知せしめたり。而して彼をして天地神明に対して、極めて真面目なるものとならしめたり。

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坂口安吾

【安吾巷談 今日われ競輪す】

 競輪場で新聞社の人に会う。市の役人に会う。青楼の内儀にもでくわす。拙者往年この町に住んでいたことがあるので、思わぬ知人がいるのである。競輪の事務所へ案内しましょうか、特別の見物席もあります、などゝすすめられたが、ことわる。特別の観覧席へ招ぜられて、お役人の手前味噌の競輪談議をきかされても、何のタシにもならない。我こそは競輪の秘密を見破り、十八万円の大穴をせしめてやろうと天地神明に誓をたてていたのだから。

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甲賀三郎

【真珠塔の秘密】

「イヤ、私は貴君を告発しなければならない位置に居るものではありません。御話しにいつわりがないと云う条件で、別に荒立てる必要はありません」と友が云った。
天地神明に誓って偽でない事を断言します」
 保命館を出て駿河台下の方へ来かかると折柄、そこの大時計は十時を打ち出した。折角手繰たぐった糸が又この異様な新な買手のめにプッつりと切り離たれたのは、友にとって打撃に相違なかったが、左程落胆している模様も見えなかった。

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久生十蘭

【金狼】

「僕は絲満が殺された夜の一時ごろ、たしかに〈那覇〉まで出かけた……しかし、天地神明に誓って、殺したのはおれじゃない。これだけは信じてくれ」

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風巻景次郎

【中世の文学伝統】

『古今集』全部の註釈を常縁自ら口授し、宗祇が筆録したので、これが有名な『古今集両度聞書』である。そのほかに特別難解な点は一々別に切紙きりかみで伝授した。これはいわゆる別紙口伝で、これを受ける者は天地神明に誓い、 みだりに他言しないという誓紙を入れて伝授を受けるしきたりとなった。この別紙口伝を受けるのがいわゆる古今伝受であって、かの『再度聞書』のようなのは、いわば伝授に伴う註釈書である。

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観世左近
二十四世

【よくぞ能の家に】

大夫は舞台正面に出て坐って礼をなし、以下も舞台の入口シテ柱で正面へ礼をする。これは昔の神前あるいは君候の前に、敬意を表する名残であって、今日では無用のようだが、私はこれを天地神明に祈祷し奉る心で行っている。「翁」に限って小鼓は頭取と脇鼓の連調で囃すが、この囃子がまたいかにも目出度いもので、歓喜の情緒が盛られている。

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Last updated : 2024/06/28