藤村いろは歌留多 |
島崎 藤村(しまざき とうそん)
![]() 島崎 藤村 |
岡本 一平(おかもと いっぺい)
![]() 岡本 一平 |
このいろはがるた - 島崎藤村
長いこと私は民話を書くことを思ひ立つて、未だそれを果たさずにゐますが、このいろはがるたもそんな心持から作つて見ました。私の『幼きものに』や、『ふるさと』や、『をさなものがたり』は、形こそ童話でありますが、その心持は民話に近いやうに、子供のために作つたこのいろはがるたも矢張それに近いものです。子供よ、來て遊べ、と言つて、父母も一緒に遊んで下さい。
藤村いろは歌留多(昭和2年・1927年1月5日発行)
* かるたの読み方を現代仮名遣いとしました。
* そのため、「《ら》蝋燭」は「ろうそく」、「《あ》鸚鵡」は「おうむ」などとなっています。
い
犬も道を知る
いぬもみちをしる

ろ
櫓は深い水、棹は淺い水
ろはふかいみず、さおはあさいみず

は
鼻から提灯
はなからちょうちん

に
鷄のおはやうも三度
にわとりのおはようもさんど

ほ
星まで高く飛べ
ほしまでたかくとべ

へ
臍も身の内
へそもみのうち

と
虎の皮自慢
とらのかわじまん

ち
ちひさい時からあるものは、大きくなつてもある-
ちいさいときからあるものは、おおきくなってもある

り
林檎に目鼻
りんごにめはな

ぬ
沼に住む鯰、沼に遊ぶ鯰
ぬまにすむなまず、ぬまにあそぶなまず

る
瑠璃や駒鳥をきけば父母がこひしい
るりやこまどりをきけばちちははがこいしい

を
丘のやうに古い
おかのようにふるい

わ
わからずやにつける藥はないか
わからずやにつけるくすりはないか

か
賢い鴉は黒く化粧する
かしこいからすはくろくけしょうする

よ
好いお客は後から
よいおきゃくはあとから

た
竹のことは竹に習へ
たけのことは、たけにならえ

れ
零點か百點か
れいてんか、ひゃくてんか

そ
空飛ぶ鳥も土を忘れず
そらとぶとりもつちをわすれず

つ
(intentionally left blank)
ね
猫には手毬
ねこにはてまり

な
なんにも知らない馬鹿、何もかも知つてゐる馬鹿
なんにもしらないばか、なにもかもしっているばか

ら
蝋燭は靜かに燃え
ろうそくはしずかにもえ

む
胸を開け
むねをひらけ

う
瓜は四つにも輪にも切られる
うりはよつにもわにもきられる

ゐ
猪の尻もちつき
いのししのしりもちつき

の
のんきに根氣
のんきにこんき

お
玩具は野にも畠にも
おもちゃはのにもはたけにも

く
草も餅になる
くさももちになる

や
藪から棒
やぶからぼう

ま
誠實は殘る
まことはのこる

け
決心一つ
けっしんひとつ

ふ
不思議な御縁
ふしぎなごえん

こ
獨樂の澄む時、心棒の廻る時
こまのすむとき、しんぼうのまわるとき

え
枝葉より根元
えだはよりねもと

て
手習も三年
てならいもさんねん

あ
鸚鵡の口に戶はたてられず
おうむのくちにとはたてられず

さ
里芋の山盛り
さといものやまもり

き
菊の風情、朝顔の心
きくのふぜい、あさがおのこころ

ゆ
雪がふれば犬でもうれしい
ゆきがふればいぬでもうれしい

め
めづらしからう、面白からう
めずらしかろう、おもしろかろう

み
耳を貸して手を借りられ
みみをかしててをかりられ

し
仕合せの明後日
しあわせのあさって

ゑ
笑顔は光る
えがおはひかる

ひ
日和に足駄ばき
ひよりにあしだばき

も
持ちつ持たれつ
もちつもたれつ

せ
蟬はぬけがらを忘る
せみはぬけがらをわする

す
西瓜丸裸
すいかまるはだか
