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一路平安
いちろへいあん
作家
作品

太宰治

【喝采】

まるで異った国の樹陰でぽかっと眼をさましたような思いで居られるこの機を逃さず、素知らぬ顔をして話題をかえ、ひそかに冷汗ぬぐう て思うことには、ああ、かのドアの陰いまだ相見ぬ当家のお女中さんこそ、わが命の親、(どっと哄笑。)この笑いの波も灯のおかげ、どうやら順風の様子、一 路平安を念じつつ綱を切ってするする出帆、題は、作家の友情について。(全く自信を取りかえしたものの如く、卓上、山と積まれたる水菓子、バナナ一本を取 りあげるより早く頬ばり、ハンケチ出して指先を拭い口を拭い一瞬苦悶、はっと気を取り直したるていにて、)私は、このバナナを食うたびごとに思い出す。

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Last updated : 2022/11/23