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手前味噌
てまえみそ
作家
作品

夏目漱石

【 道草 】

 彼は親類から変人扱いにされていた。しかしそれは彼に取って大した苦痛にもならなかった。
「教育が違うんだから仕方がない」
 彼の腹の中には常にこういう答弁があった。
「やっぱり 手前味噌てまえみそよ」
 これは何時でも細君の解釈であった。
 気の毒な事に健三はこうした細君の批評を超越する事が出来なかった。そういわれるたび気不味きまずい顔をした。ある時は自分を理解しない細君をしんから忌々いまいましく思った。ある時はしかり付けた。またある時は頭ごなしにり込めた。すると彼の癇癪かんしゃくが細君の耳に空威張からいばりをする人の言葉のように響いた。細君は「手前味噌」の四字を「 大風呂敷おおぶろしき」の四字に訂正するに過ぎなかった。

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芥川龍之介

【 戯作三昧 】

「尤も、当節の歌よみや宗匠位には行くつもりだがね。」
 しかし、かう云ふと共に、彼は急に自分の子供らしい自尊心が恥づかしく感ぜられた。自分はさつき平吉が、最上級の語を使つて八犬伝を褒めた時にも、格別嬉しかつたとは思つてゐない。さうして見れば、今その反対に、自分が歌や発句を作る事の出来ない人間と見られたにしても、それを不満に思ふのは、あきらかに矛盾である。咄嗟とつさにかう云ふ自省を動かした彼は、あたかも内心の赤面を隠さうとするやうに、慌しく止め桶の湯を肩から浴びた。
「でございませう。さうなくつちや、とてもああ云ふ傑作は、お出来になりますまい。して見ますと、先生は歌も発句もお作りになると、かう睨んだ手前の眼光は、やつぱり大したものでございますな。これはとんだ手前味噌になりました。」

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内田魯庵

【 露伴の出世咄 】

 学海翁の家へはソンナ書生が日に何人も来た。預かってる原稿も山ほど積んであった。中には随分手前味噌の講釈をしたり、 己惚うぬぼれ半分の苦辛談を吹聴したりするものもあったが、読んで見ると物になりそうなは十に一つとないから大抵は最初の二、三枚も拾読みして放たらかすのが常であった。が、その日の書生は風采態度が一と癖あり気な上に、キビキビした歯切れのイイ江戸弁で率直に言放すのがタダ者ならず見えたので、イツモは十日も二十日も捨置くのを、何となく気に掛ってその晩、ドウセ物にはなるまいと内心馬鹿にしながらも二、三枚めくると、ノッケから読者を旋風に巻込むような奇想天来に有繋さすがの翁も磁石に吸寄せられる鉄のように喰入って巻をく事が出来ず、とうとう徹宵してついに読終ってしまった。

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太宰治

【 鉄面皮 】

 安心したまえ、君の事を書くのではない。このごろ、と言っても去年の秋から「右大臣実朝」という三百枚くらいの見当の小説に取りかかって、ことしの二月の末に、やっと百五十一枚というところにぎつけて、疲れて、二、三日、自身に休暇を与えて、そうしてことしの正月に舟橋氏と約束した短篇小説の事などぼんやり考えていたのだけれども、私の生れつきの性質の中には愚直なものもあるらしく、胸の思いが、どうしても「右大臣実朝」から離れることが出来ず、きれいに気分を転換させて別の事を書くなんてあざやかな芸当はおぼつかなく、あれこれ考え迷った末に、やはりこのたびは「右大臣実朝」の事でも書くよりほかに仕方がない、いや、実朝というその人にいては、れいの三百枚くらいの見当で書くつもりなので、いまは、その三百枚くらいの見当の「右大臣実朝」という私の未完の小説を中心にして三十枚くらい何か書かせてもらおう、それより他に仕方がなかろうという事になったわけで、さて、それに就いてまたもあれこれ考えてみたら、どうもそれは、自作に対する思わせぶりな宣伝のようなものになりはしないか、これは誰しも私と同意見に違いないが、いったいあの自作に対してごたごたと手前 味噌みそを並べるのは、ろくでもない自分の容貌をへんに自慢してもっともらしく説明して聞かせているような薄気味の悪い狂態にも似ているので、私は、自分の本の「はしがき」にも、または「あとがき」にも、いくら本屋の人からそう書けと命令されても、さすがに自慢は書けず、もともと自分の小説の幼稚にして不手際なのには自分でもあきれているのであるから、いよいよ宣伝などは、思いも寄らぬ事のはずであるが、けれども、いま自分の書きかけの小説「右大臣実朝」をめぐって何か話をすすめるという事になったならば、作者の真意はどうあろうと、結果にいては、汚い手前味噌になるのではあるまいか、映画であったら、まず予告篇とでもいったところか、見え透いていますよ、いかに 伏目ふしめになって謙譲の美徳とやらをよそおって見せても、田舎いなかっぺいの図々ずうずうしさ、何を言い出すのかと思ったら、創作の苦心談だってさ、苦心談、たまらねえや、あいつこのごろ、まじめになったんだってね、金でもたまったんじゃないか、勉強いたしているそうだ、酒はつまらぬと言ったってね、口髭くちひげをはやしたという話を聞いたが、うそかい、とにかく苦心談とは、恐れいったよ、謹聴々々、などと腹の虫が一時に騒ぎ出して来る仕末なので、作者は困惑して、この作品に題していわく「鉄面皮」。どうせ私は、つらの皮が厚いよ。

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岸田國士

【 戯曲及び戯曲作家について 】

 戯曲を文学として読む場合に、作者の幻象イメエジが、そのまま読者の幻象となり得ることを、戯曲作家と雖も、小説作家と等しく期待してゐるのである。戯曲作家は、普通、「舞台を頭に置いてゐる」と云ふが、これが、「舞台など頭に置いてゐない」読者、乃至批評家の気に入らぬところらしい。しかし、さういふ手前味噌は意にかけない方がよろしい。万一「舞台」を頭におかなければ、面白くないやうな戯曲があれば、「舞台」を頭においても面白くないに極つてゐるのだ。ただ、「舞台」といふ言葉を、「戯曲の世界」又は、「戯曲の時間的空間的生命」といふ意味に解すれば、それはまた別だ。つまり、さうなると、劇場や俳優は問題でなく、作家の観察と想像が描き出す物語の一場面を、記憶と連想によつて立体化し、耳と眼の仮感にまで歴々と訴へ得る能力、これさへあれば、どんな戯曲でも、隅々までわかる道理である。そして、そこに、一脈の生命感をとらへ得たら、その戯曲は、読まれたことになるのである。

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濱田耕作

【 考古學教室の思ひ出話 】

また陳列館が追々増築せられて、昭和四年北翼が完成しましてからは、陳列室を此の部分に移し、今日に至つて居りますが、研究室は始めから今の南室の處であり、その頃から色々の人が自由に出入し、煙草の煙と茶話會が行はれるので、「カフエー・アルケオルギー」の名をつけられて、今なほ御蔭を以て繁昌致して居る次第であります。そして大正五年以來研究報告書を出版致し、今ではいつしか十三册まで發行致しました。なほ考古學教室の日本各地に於いて、また朝鮮、滿洲等に於いて、いろ/\と仕事を致して居ることなどに就いては、手前味噌にもなり、長くもなることですから凡て省いて置くことに致します。

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直木三十五

【 大衆文芸作法 】

 我田引水のように聞えるかもしれないが、敢て手前味噌を云えば、拙作「由比根元大殺記」(目下「週刊朝日」連載中)の中の立廻りは、今までの大衆文芸のありふれた立廻りとは稍趣きを異にして、内面的にも外形的にも可成り「剣術」の正道に当嵌った描写を注意してやっている積りであるから、もし読者諸君に興味があるなら、読んで欲しいと思うということを附加しておく。

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南方熊楠

【 十二支考 蛇に関する民俗と伝説 】

 邪視英語でイヴル・アイ、伊語でマロキオ、梵語でクドルシュチス。明治四十二年五月の『東京人類学会雑誌』へ、予その事を長く書き邪視と訳した。その後一切経を調べると、『四分律蔵』に邪眼、『玉耶経』に邪盻じゃけい、『増一阿含』に悪眼、『僧護経』『菩薩処胎経』に見毒、『蘇婆呼童子経』に眼毒とあるが、邪視という字も『普賢行願品』二十八に出でおり、また一番好いようでもあり、柳田氏その他も用いられ居るから、手前味噌ながら邪視と定め置く。もっとも本統の邪視のほかにインドでナザールというのがあって、悪念を以てせず、何の気もなく、もしくは賞讃して人や物を眺めても、眺められた者が害を受けるので、予これを視害と訳し置いたが、これは経文に因って見毒と めるがよかろう。

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中里介山

【 大菩薩峠 めいろの巻 】

 これは全く意表に出でた文句の変化であって、前段に読みきたったところのものは、たしかに医書であります。その医書のうちの会心のところ、道庵からいえばかなり手前味噌になりそうなところを二三カ所、朗々として読み上げて来たのですけれど、それは職業の手前 とがめる由は無いが、ここに来って急に、「ナムカラカンノトラヤアヤア」と言い出したのは、どう考えても理窟に合わないことです。木に竹をつぐということはあるが、これは医につぐにじゅを以てするとでもいうのでしょう。

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海野十三

【 省線電車の射撃手 】

 ええと、それから、龍子は重症だが、一命をとりとめると噂が耳に入ったので、戸浪三四郎は彼女の跡を追って伝研でんけんの病室へ忍び入り、機会を待った。チャンスが来た。寝ている龍子の心臓のあたりをポンポン打った。イヤ消音しょうおんピストルだからプスプス射ったというんですね、そこを待ち構えていた刑事諸君の手でつかまっちまった。僕の手柄は 手前味噌てまえみそですから書きません。無論むろん戸浪が犯行につかったインチキ・ピストルも発見せられた。いいですね、帆村さん。

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  • それぞれの四字熟語の詳しい意味などは、辞典や専門書でお確かめください。
  • このサイトの制作時点では、三省堂の『新明解 四字熟語辞典』が、前版の5,600語を凌ぐ6,500語を収録し、出版社によれば『類書中最大。よく使われる四字熟語は区別して掲示。簡潔な「意味」、詳しい「補説」「故事」で、意味と用法を明解に解説。豊富に収録した著名作家の「用例」で、生きた使い方を体感。「類義語」「対義語」を多数掲示して、広がりと奥行きを実感』などとしています。

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Last updated : 2023/10/27