家紋の図鑑・守貞謾稿(もりさだまんこう)に見る家紋

守貞謾稿に見る家紋

江戸時代の終わり、約30年間にわたり当時の文化や風俗を徹底的に記録し続けた巨大なデータベースが存在しました。

それが、江戸時代の百科事典とも称される『守貞謾稿(もりさだまんこう)』です。

今回は、この貴重な文献の中に書かれた「江戸時代の家紋事情」について、国会図書館公開の画像とともに読み解きます。現代の私たちにも通じる家紋の常識や、当時ならではの面白い区分が見えてきます。

1.「守貞謾稿(もりさだまんこう)」とは?

江戸の暮らしを30年間記録し続けた「究極の風俗百科事典」

『守貞謾稿(もりさだまんこう)』は、江戸時代末期の研究者・喜田川守貞(きたがわもりさだ)が、天保8(1837)年から約30年間にわたって執筆した、当時の生活・文化に関する一種の百科事典です。

衣食住から年中行事、商売、遊びに至るまで、約700項目におよぶ詳細な解説と、1600点ものリアルな挿絵(付図)が収録されています。大坂生まれの守貞が30歳で江戸に移住したことから、京都・大坂(京坂)と江戸の文化の違いを比較している点も大きな特徴です。

当時の庶民や武士のリアルな暮らしぶりを知る上で、現在も最高峰の超一級資料として重宝されています。

当サイトに、『守貞謾稿』の全図を紹介するページ  があります
2.「守貞謾稿」に見る江戸時代の家紋事情
『守貞謾稿』の記述からは、江戸時代における家紋が「もともとは戦場での目印だったものが、時代を経てあらゆる階級に普及したこと」、そして公式な家紋(定紋)とは別に「臨時のマーク(仮号・しるし)が広く使われていたこと」が分かります。
「守貞謾稿」に見る家紋
「守貞謾稿」に見る家紋の記述(国立国会図書館蔵)
= 現代仮名遣いでの原文 =

記号

 俗に定紋(じょうもん)、あるいは家紋など云うなり。朝廷には十六葩(は)菊花と五七桐、藤氏の藤、源氏の笹りんどう、平氏の蝶等、皆人の知る所なり。

昔はこれなし。その始め、武人戦場に用う幕および旗にこれを描きて目標(めじるし)とするに起り、今は貴賤(きせん)ともに必ずこれあり。あるいは一家一紋のみ、あるいは二、三紋あるあり。

また近世、記号の他に仮号(かごう)あり。俗に志留之(しるし)と云う。 たとえば、幕府の御紋は葵なり。志留之に日の丸と号して朱の円形を描く。尾州家(尾張徳川家)は ㊇ 、紀州家(紀州徳川家)は紀の字、水戸家(水戸徳川家)は ㊌ 等なり。これまた貴賤これを用う。商家必ずこれありて、暖簾(のれん)にこれを描く。

※ 理解しやすくするために若干の文言を補っており、原文とは異なる部分があります。
3. 守貞が語る、江戸の家紋3つのトピックス

 [1]「記号」= 家紋。当時はすべての人が持っていた

  守貞は、家紋のことを「記号」という項目で紹介しています。もともとは平安貴族の象徴(菊・桐・藤など)や、源平の戦いで武士が戦場で敵味方を識別するための「目印(目標)」から始まったと説明されています。 重要なのは、江戸時代末期には「今は貴賤ともに必ずこれあり」と書かれている点です。武士だけでなく、お百姓さんも町人も、身分に関わらず誰もが自分の家紋を持つのが当たり前になっていたことが分かります。また、家ごとに1つとは限らず、2つも3つも使い分けるケース(副紋・控え紋など)もあったと言及しています。

 [2]「仮号(しるし)」というもう一つのマーク

  守貞は、正式な家紋(定紋)とは別に、「仮号(かごう)/ 俗にしるし」という臨時のマークが存在していたことを記しています。 例えば、徳川将軍家の正式な家紋はご存知「三つ葉葵」ですが、戦時や行事の際の「しるし(仮号)」としては「日の丸(朱色の丸)」を掲げていました。御三家である尾張家は丸に八の字( ㊇ )、紀州家は「紀」の文字、水戸家は丸に水( ㊌ )の文字を「しるし」として使っていたとあります。

 [3] 商人の「暖簾(のれん)マーク」もここから発展

  この「しるし(仮号)」は、身分の高い大名家だけでなく、庶民や商業の世界でも大活躍していました。 守貞は「商家には必ずこれがあり、暖簾に描いている」と説明しています。江戸時代の町並みを描いた浮世絵などで、お店の暖簾に屋号の文字やシンプルな図形が大きく白抜きされているのを見かけますが、あれこそが守貞の言う「しるし」です。これが現代の企業の「ロゴマーク」へとつながっていきます。

4. 結び
『守貞謾稿』を読むと、江戸時代の人々にとって家紋やマークがいかに身近で、生活に根ざした楽しいものだったかが伝わってきます。 当サイトでは、歴史的な大名・武士の家紋から、庶民に愛されたお洒落な紋まで、日本最大級の17,064件の家紋画像を公開しています。ぜひ、あなたの家の家紋や、気になる歴史上の人物の家紋を検索してみてください!