「書き終わり・結び」

 「書き終わり・結び」 <作家別・は行>

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  使い方と説明
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  • 主に明治・大正から昭和初期の作家の、日本文学を主とする著名な作品の「書き出し」と「書き終わり・結び」を収録しました。一部翻訳文も含まれます。
  • 詩集や、段などで書かれている作品は、初めの一編(一段、一作など)と最後の一編(一段、一作など)を「書き出し」「書き終わり・結び」として示しました。小説や随筆などにおける「書き出し」「書き終わり・結び」とはやや趣が異なります。
  • このページでは、『作家別・は行』の作品の「書き終わり・結び」、つまり作品の最後の部分を表示します。
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  • 「インターネット電子図書館 青空文庫 」からの引用がかなりの割合を占めます。引用したサイトがある場合、それぞれの作品の原文へのリンクを設けました。
1.林芙美子 「晩菊」  

よく熾つた火鉢の青い炎の上に、田部の若かりしころの写真をくべた。もうもうと煙が立ちのぼる。物の焼ける匂ひが四囲にこもる。女中のきぬがそつと開いてゐる襖からのぞいた。きんは笑ひながら手真似で、客間に蒲団を敷くやうに言ひつけた。紙の焼ける匂ひを消す為に、きんは薄く切つたチーズの一切れを火にくべた。「わァ、何焼いてるの」厠から戻つて来た田部が女中の豊かな肩に手をかけて襖からのぞき込んだ。「チーズを焼いて食べたらどンな味かと思つて、火箸でつまんだら火におつことしちまつたのよ」白い煙の中に、まっすぐな黒い煙がすつと立ちのぼつてゐる。電気の円い硝子笠が、雲の中に浮いた月のやうに見えた。あぶらの焼ける匂ひが鼻につく。きんは、煙にむせて、四囲の障子や襖を荒々しく開けてまはつた。
2.林芙美子 「放浪記(初出)」  

 せいいっぱい声をはりあげて、小学生のような気持ちで本が読みたい。
 ハト、マメ、コマ、タノシミニマッテヰナサイか!
 郵便局から帰えって来ると、お隣のベニの部屋に、刑事が二人も来ていた。
 窓をあけると、三月の陽を浴びて、画学生たちが、すもうを取ったり、壁に凭れたり、あんなにウラウラと暮らせたらゆかいだろう。
 私も絵は好きなんですよ、ホラ! ゴオギャンだの、ディフィだの好きです。
「アパートに空間ありませんか!」
 新鮮な朗らかな笑い声がはじけると、一せいに彼達の瞳が私を見上げる。
 その瞳には、空や山や海や――。
 私はベニの真似をして二本の指を出して見せた。
 焦心、生きるは五十年
3.樋口一葉 「大つごもり」  

 大勘定とて此夜あるほどの金をまとめて封印の事あり、御新造それ/\と思ひ出して、懸け硯に先程、屋根やの太郎に貸付のもどり彼金あれが二十御座りました、お峰お峰、かけ硯を此處へと奧の間より呼ばれて、最早此時わが命は無き物、大旦那が御目通りにて始めよりの事を申、御新造が無情そのまゝに言ふてのけ、術もなし法もなし正直は我身の守り、逃げもせず隱られもせず、欲かしらねど盜みましたと白状はしましよ、伯父樣同腹ひとつで無きだけを何處までも陳べて、聞かれずば甲斐なし其場で舌かみ切つて死んだなら、命にかへて嘘とは思しめすまじ、それほど度胸すわれど奧の間へ行く心は屠處としよの羊なり。
4.樋口一葉 「たけくらべ」  

 龍華寺の信如が我が宗の修業の庭に立出る風説うはさをも美登利は絶えて聞かざりき、有し意地をば其まゝに封じ込めて、此處しばらくの怪しの現象さまに我れを我れとも思はれず、唯何事も恥かしうのみ有けるに、或る霜の朝水仙の作り花を格子門の外よりさし入れ置きし者の有けり、誰れの仕業と知るよし無けれど、美登利は何ゆゑとなく懷かしき思ひにて違ひ棚の一輪ざしに入れて淋しく清き姿をめでけるが、聞くともなしに傳へ聞く其明けの日は信如が何がしの學林がくりんに袖の色かへぬべき當日なりしとぞ。
5.樋口一葉 「にごりえ」  

一處に歩いて話しはしても居たらうなれど、切られたは後袈裟うしろげさ頬先ほゝさきのかすり疵、頸筋の突疵など色々あれども、たしかに逃げる處を遣られたに相違ない、引かへて男は美事な切腹、蒲團やの時代から左のみの男と思はなんだがあれこそは死花しにばな、ゑらさうに見えたといふ、何にしろ菊の井は大損であらう、彼の子には結構な旦那がついた筈、取にがしては殘念であらうと人の愁ひを串談に思ふものもあり、諸説みだれて取止めたる事なけれど、恨は長し人魂ひとだまか何かしらず筋を引く光り物のお寺の山といふ小高き處より、折ふし飛べるを見し者ありと傳へぬ。
6.福沢諭吉訳 トマス・ジェファーソン 「アメリカ独立宣言」  

故ニ亜米利加合衆国ノ名代人タル我輩、其論説ノ正否ヲ世界中ノ公評ニただサンガ為メ、コヽニ会同シテ、州内良民ノ名ニ代リ州内良民ノ権ヲリ、謹テ次件ヲ布告ス。合衆諸州ハもとヨリ独立スルノ理ヲ以テ独立シ、英国ト交ヲ絶チ、英国ノ支配ヲ受ケズ。固ヨリ之ト離別スルノ理ヲ以テ之ト離別シ、かつ既ニ不覊独立ノ国ト為リタルガ故ニ、或ハ師ヲ出シ或ハ和睦ヲ議シ、或ハ条約ヲ結ビ或ハ貿易ヲ為ス等、すべテ独立国ニ行フベキ事件ハ我国ニ於テモ之ヲ施行スルノ全権アリ。○右布告ノ趣旨ハ、余輩天道ノ扶助ヲ固ク信ジテ、幸福ト栄名ヲ此一挙ニ期シ、死ヲ以テ之ヲ守ルモノナリ。
十三州ノ名代人四十八名調印
〔『西洋事情』初編 慶応二年〕
7.福沢諭吉 「学問のすすめ」  

 人類多しといえども、鬼にもあらずじゃにもあらず、ことさらにわれを害せんとする悪敵はなきものなり。恐れはばかるところなく、心事を丸出しにしてさっさと応接すべし。ゆえに交わりを広くするの要は、この心事をなるたけ沢山にして、多芸多能一色に偏せず、さまざまの方向によりて人に接するにあり。あるいは学問をもって接し、あるいは商売によりて交わり、あるいは書画の友あり、あるいは碁・将棋の相手あり、およそ遊冶放蕩の悪事にあらざるより以上のことなれば、友を会するの方便たらざるものなし。あるいはきわめて芸能なき者ならばともに会食するもよし、茶を飲むもよし。なお下りて筋骨の丈夫なる者は腕押し、枕引き、足角力ずもうも一席の興として交際の一助たるべし。腕押しと学問とは道同じからずして相ともに謀るべからざるようなれども、世界の土地は広く、人間の交際は繁多にして、三、五尾ふな井中せいちゅうに日月を消するとは少しく趣を異にするものなり。人にして人を毛嫌いするなかれ。
8.二葉亭四迷訳 イワン・ツルゲーネフ 「あいびき」  

鳩が幾羽ともなく群をなして勢込んで穀倉の方から飛んできたが、フト柱を建てたように舞い昇ッて、さてパッといっせいに野面に散ッた――ア、秋だ! 誰だか禿山の向うを通るとみえて、から車の音が虚空こくうに響きわたッた……
 自分は帰宅した、が可哀そうと思ッた「アクーリナ」の姿は久しく眼前にちらついて、忘れかねた。持帰ッた花の束ねは、からびたままで、なおいまだに秘蔵してある………………
9.二葉亭四迷 「浮雲」  

 出て行くお勢の後姿を目送みおくって、文三は莞爾にっこりした。どうしてこう様子がかわったのか、それを疑っているにいとまなく、ただ何となく心嬉しくなって、莞爾にっこりした。それからは例の妄想もうそう勃然ぼつぜんと首をもたげて抑えても抑え切れぬようになり、種々さまざま取留とりとめも無い事が続々胸に浮んで、遂にはすべてこの頃の事は皆文三の疑心から出た暗鬼で、実際はさして心配する程の事でも無かったかとまで思い込んだ。が、また心を取直して考えてみれば、故無くして文三をはずかしめたといい、母親にさからいながら、何時しかそのいうなりに成ったといい、それほどまで親かった昇と俄に疏々うとうとしくなったといい、――どうも常事ただごとでなくも思われる。と思えば、喜んで宜いものか、悲んで宜いものか、殆ど我にも胡乱うろんになって来たので、あたかも遠方からこそぐる真似をされたように、思い切っては笑う事も出来ず、泣く事も出来ず、快と不快との間に心を迷せながら、暫く縁側を往きつ戻りつしていた。が、とにかく物を云ったら、聞いていそうゆえ、今にも帰ッて来たら、今一度運を試して聴かれたらその通り、若し聴かれん時にはその時こそ断然叔父の家を辞し去ろうと、遂にこう決心して、そしてまず二階へ戻った。
10.二葉亭四迷 「平凡」  

 文学は一体如何どういう物だか、私には分らない。人の噂で聞くと、どうやら空想を性命とするもののように思われる。文学上の作品に現われる自然や人生は、仮令たとえば作家が直接に人生に触れ自然に触れて実感し得た所にもせよ、空想で之を再現させるからは、本物でない。写し得て真にせまっても、本物でない。本物の影で、空想の分子を含む。之に接してる所の感じには何処にか遊びがある、即ち文学上の作品にはどうしても遊戯分子ゆうげぶんしを含む。現実の人生や自然に接したような切実な感じの得られんのは当然あたりまえだ。私が始終斯ういう感じにばかりつかっていて、実感で心を引締めなかったから、人間がだらけて、ふやけて、やくざがいとどやくざになったのは、或は必然の結果ではなかったか? 然らば高尚な純正な文学でも、こればかりに溺れては人の子もそこなわれる。いわんやだらしのない人間が、だらしのない物を書いているのが古今ここんの文壇のヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽ
((終)

二葉亭が申します。此稿本は夜店を冷かして手に入れたものでござりますが、跡は千切れてござりません。一寸お話中に電話が切れた恰好でござりますが、致方がござりません。

11.堀辰雄 「風立ちぬ」  

それほど私にはその何もかもが親しくなっている、この人々のうところの幸福の谷――そう、なるほどこうやって住み慣れてしまえば、私だってそう人々と一しょになって呼んでも好いような気のする位だが、……此処だけは、谷の向う側はあんなにも風がざわめいているというのに、本当に静かだこと。まあ、ときおり私の小屋のすぐ裏の方で何かが小さな音をしらせているようだけれど、あれは恐らくそんな遠くからやっと届いた風のために枯れ切った木の枝と枝とが触れ合っているのだろう。又、どうかするとそんな風の余りらしいものが、私の足もとでも二つ三つの落葉を他の落葉の上にさらさらと弱い音を立てながら移している……。

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Last updated : 2019/05/15