戦争絶滅受合法案
(せんそうぜつめつうけあいほうあん)

長谷川如是閑(1872-1951)
長谷川如是閑(1875-1969)
 第一次世界大戦(1914年〜1918年)が終結して10年後の1929年(昭和4年)、長谷川如是閑はせがわにょぜかんという人が、『戦争絶滅受合法案せんそうぜつめつうけあいほうあん』という一文を、デンマークの軍人が書いたものを紹介するという形で発表しました。

 その趣旨は、「戦争が始まったら10時間以内に、国家元首、大統領、国家元首の親族で16歳に達した男性、総理大臣・大臣・次官、戦争に反対しなかった国会議員、戦争に反対しなかった宗教家を最下級の兵卒として召集し、最前線で敵の砲火の下に実戦につくべき」というものです。

 また、女性では、「有資格者の妻、娘、姉妹などは、戦争が続く間、看護婦又は使役婦として召集し、最も砲火に近い野戦病院に勤務させるべき」 としています。

 「世界各国がこの法案を成立させれば、世界から戦争がなくなること “ 請け合い ” 」というものです。

 ここに、長谷川如是閑が書いた全文を紹介します。

 なお、長谷川は、「名案だが、これを各国で成立させるためには、もう一つホルム大将に、「戦争を絶滅させること受合の法律を採用させること受合の法律案」を起草して貰わねば」とも記しています。

 この一文に触発されたかどうかは定かではないが、 1982年の「広告批評」6月号に、コピーライターの糸井重里氏とアートディレクターの浅葉克己氏が作った『まず、総理から前線へ。』という作品が載っている。当時の編集長の天野祐吉氏(1933年4月27日 - 2013年10月20日)が、このいきさつなどを2008年1月のブログで紹介している。 ▶ 天野祐吉氏のブログ(2008-01-14)



戦争絶滅受合法案


 世界戦争が終つてまだ十年経つか経たぬに、再び世界は戦争の危険に脅かされ、やれ軍縮条約の不戦条約のと、嘘の皮で張つた太鼓を叩き廻つても、既に前触れ小競り合ひは大国、小国の間に盛に行はれてゐる有様で、世界広しと雖も、この危険から超然たる国は何処にある? やゝその火の手の風上にあるのはデンマーク位なものだらうといふことである。
 そのデンマークでは、だから常備軍などゝいふ、廃刀令以前の日本武士の尻見たやうなものは全く不必要だといふので、常備軍廃止案が時々議会に提出されるが、常備軍のない国家は、大小を忘れた武士のやうに間のぬけた恰好だとでもいふのか、まだ丸腰になりきらない。
 然るに気の早いデンマークの江戸ツ子であるところの、フリツツ・ホルムといふコペンハーゲン在住の陸軍大将は、軍人ではあるがデンマーク人なので、この頃「戦争を絶滅させること受合ひの法律案」といふものを起草して、これを各国に配布した。何処の国でもこの法律を採用してこれを励行したら、何うしたつて戦争は起らないことを、 牡丹餅ぼたもち 判印で保証すると大将は力んでゐるから、どんな法律かと思へば、次ぎのやうな条文である。

  • 「戦争行為の開始後又は宣戦布告の効力の生じたる後、十時間以内に次の処置をとるべきこと。
     即ち左の各項に該当する者を最下級の兵卒として召集し、出来るだけ早くこれを最前線に送り、敵の砲火の下に実戦に従はしむべし。
    • 一、国家の××(元首)。但し△△(君主)たると大統領たるとを問はず。尤も男子たること。
    • 二、国家の××(元首)の男性の親族にして十六歳に達せる者。
    • 三、総理大臣、及び各国務大臣、并に次官。
    • 四、国民によつて選出されたる立法部の男性の代議士。但し戦争に反対の投票を為したる者は之を除く。
    • 五、キリスト教又は他の寺院の僧正、管長、其他の高僧にして公然戦争に反対せざりし者。
  • 上記の有資格者は、戦争継続中、兵卒として召集さるべきものにして、本人の年齢、健康状態等を斟酌すべからず。但し健康状態に就ては召集後軍医官の検査を受けしむべし。
    上記の有資格者の妻、娘、姉妹等は、戦争継続中、看護婦又は使役婦として召集し、最も砲火に接近したる野戦病院に勤務せしむべし。」

 これは確かに名案だが、各国をして此の法律案を採用せしめるためには、も一つホルム大将に、「戦争を絶滅させること受合の法律を採用させること受合の法律案」を起草して貰はねばならぬ。

ーーー 如 是 閑 ーーー 

(一九二九、一、一)

 底本:『長谷川如是閑集 第二巻』岩波書店 1989年(平成元年)11月20日 発行
 初出:『我等』十一巻一号 巻頭言 1929年(昭和4年)年1月1日


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